第202話：欲しいもの ページ8
実際―――至極どうでもいい。
「お前は知らなくていい」と一言言われれば、「ああそうですか」でさよなら。
深く追求する必要もない。
だって、自分にはまったく関係のないことなのだから。
それでも疑問に思ったから軽率に口にしてみただけ。
速水が自分に、寮へ移行しない理由を問うたのも、このように特に他意はなかったんだろう。
渡海は両手を白衣のポケットにしまいこんだまま、Aの前に歩み止まった。
「お前は、大金があったとして。」
「…？」
「何を買う。何が欲しい？」
そう言われても。Aは俯き思考する。
「……、強いて言うなら、本…？」
「知識には貪欲だもんな」
「先生だってそうでしょ。そも、この職の人間は大抵が知識欲そのものでしょう。
…じゃなくて。私は先生が何を買いたいのか聞いてるんです。」
溜息を交えて論点を元に戻す。なんでそうものらりくらりと避けるんだお前は。
俯かせていた顔を上げる。ほのかに甘い香りが、目と目の間に突き刺さった。
「俺に買いたいもんなんてねえよ」
「え…、じゃあなんで…」
「金のルートなんてお子様が知ってどうする」
「……えっ！？いや成人済みですよ！！？今まさに職に就いてるんですけど！！あなたの部下！！」
「精神は子供だろ」
「はぁー！？」
渡海は好き勝手言って満足したのか、くるりとAに背を見せスタスタと先に進んでいく。
Aも焦ったように彼の後を追う。
彼の背後にぴたりとついて、男の後頭部を睨みつけながら言った。
「つまり教えないってことでいいですね？先生には欲しいものがないって解釈でも？」
「欲しいもの、は」
渡海の手が、後ろの彼女の眼前へ伸びる。
渡海とAが立ち止まるのはほぼ同時で、
彼の人差し指と中指が彼女の額に触れるのもまた同じだった。
「その頭で考えてみな」
指の隙間から、目の前の指導医が微笑んだのを見た。
.
「………」
「元気ですか…先生…」
「今あんまり…」
「どうしたんですか？またぼーっとしちゃって…」
「……額の悪夢を思い出して…」
「？」
医務室でぼうっと突っ立っているAの表情は、いつかのあの日のようにどこか上の空だ。
たまらず花房も声をかけたはいいものの、不調らしい。
(あ〜〜〜キスされたの…思い出した……絶対確信犯だ………)
ああ、夜には高階先生の手伝いをしなければいけないのに。気力が保つ気がしない。
(つーか、結局先生の欲しいもの全然わかんない…)
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理音(プロフ) - 更新して欲しいです！！待ってます！！ (7月16日 23時) (
レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
狐海(プロフ) - 更新楽しみに待ってます…！ずっと！！待ってます！！ (2023年4月20日 18時) (レス) id: ce22822f8d (このIDを非表示/違反報告)
理音(プロフ) - 続き気になります！更新楽しみにしています！ (2022年5月13日 19時) (レス) id: d1bb6ccd48 (このIDを非表示/違反報告)
積み荷 - すごく面白くて続きが気になって三回もコメントするDS民ですこんばんは！もう更新はされないんでしょうか…きっとお忙しいのだと思います、事情も知らない外野ですがなんか応援してます！ (2020年2月19日 1時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
昇降機 - めちゃめちゃ面白いですいつまででも待ってます…！原作も読みましたが面白かったです(影響受けた)続きを楽しみにしてます…！ (2020年2月5日 20時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2018年7月21日 20時
