第232話：過去6 ページ38
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ふらふらとした足取りで病院の廊下を進む。
通りすがる医者や外来客が「大丈夫ですか」と声をかけてくるのを、上の空で過ぎていった。
雨の音がする。
≪「自分の能力不足なんかじゃない、と言え。」 ≫
音に紛れながら父の言葉を思い出す。
何も言えず父を見つめることしかできなかった自分に言った父の言葉を。
≪「あのな。医者ってのはどの時代もすごいんだよ。今じゃ文明だって進んでる。
医学生のお前が一番よく分かってるだろう。
あの佐伯…、佐伯教授を信じろ。彼はすごい医者なんだ。
お前は自分を貫いて生きるんだ。
お父さんは救われるさ。だから大丈夫なんだよ。」≫
窓の外を見つめて言う父の後ろ姿は、どうにも哀愁しかない。
いつの間にこんなにも枯れ果てたのかと、頼りなくなった背中を見て思った。
結局なにも言えなかった。「今日はもう帰るね」と言って、父の返答の前に病室を出て行った。
(お父さんは救われるって、何)
≪「…我々医者は、断言できないのです」≫
≪「……教授、顔色が優れません。教授もすぐにお休みになりましょう。」≫
≪「…私は、こういう時ばかり、無力だと痛感してしまうね」≫
(じゃあ、なんで、先生達はあんなにも、)
あんなにも不安そうなんだ。
肩を震わせる。
か細く、強い息遣い。それを自分の声だと気付くのは、雨にずぶ濡れになった後だ。
すぐ傍で、雨が建物やベンチを打ち付ける音がする。
いつもならこの病院の中庭ではしゃいでいる子供の声も聞こえない。
雨が涙を打ち消して、泣いているんだか雨のせいなんだかも分からない。
このままでは身体が冷えてしまう。風邪をひいてしまう。鞄の中身は…恐らく大丈夫だろう。
ああ、傘は持ってきていたっけ。
折り畳み傘なら辛うじて。でも、前に強風に煽られて壊れなかったっけ。
「……っ、」
慟哭を堪える。喉につっかかるそれを抑えこむように、鞄を抱いてふさぎ込んだ。
「Aさん」
静かな男の声と共に、ふっとAの頭上から影が重なる。
自分を打ち付ける雨がなくなった。
代わりに、頭上でばたばたと雨が落ちる音が絶え間なく響いている。
ぱしゃ、と一足水たまりを踏んだ音を最後に、影はそこで動かなくなった。
「………だれ？」
「………。」
「………どなたかは存じませんが、放っておいて、もらえませんか」
「風邪引きますよ」
「………。」
「それに病院の前です」
「…それは、すみません」
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理音(プロフ) - 更新して欲しいです！！待ってます！！ (7月16日 23時) (
レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
狐海(プロフ) - 更新楽しみに待ってます…！ずっと！！待ってます！！ (2023年4月20日 18時) (レス) id: ce22822f8d (このIDを非表示/違反報告)
理音(プロフ) - 続き気になります！更新楽しみにしています！ (2022年5月13日 19時) (レス) id: d1bb6ccd48 (このIDを非表示/違反報告)
積み荷 - すごく面白くて続きが気になって三回もコメントするDS民ですこんばんは！もう更新はされないんでしょうか…きっとお忙しいのだと思います、事情も知らない外野ですがなんか応援してます！ (2020年2月19日 1時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
昇降機 - めちゃめちゃ面白いですいつまででも待ってます…！原作も読みましたが面白かったです(影響受けた)続きを楽しみにしてます…！ (2020年2月5日 20時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2018年7月21日 20時
