第228話：過去2 ページ34
お察しの通り状況は絶望的である。心臓の方もそうだが、合併が多かった。
元々重症的な喫煙者であったのも手伝って、かなり症状としては重いものばかり。
子供の前で吸うことだけはしなかった親だったもので、そこで彼がヘビースモーカーだと知った。
「肺は弱ってたし、脳も何か…もう覚えてないや。血圧も安定してなかったかな」
なんていい加減なのか、と思うだろう。私もそう思う。
だが人間は不思議なことにパニックに陥れば記憶するものは少なくなる。
静かな錯乱状態。あの日々はずっとそうだった。
書類を見ればきっと分かるのだろうが、もう過ぎてしまったことだ。つらくなるだけである。
「んで、運ばれた先がここ」
東城大。全国レベルで言えば間違いなく無名。それでも誇れるもの。
「心臓に関しては敵ナシ、って大学でもよく聞いてたよねぇ」
それはもう大学をすっ飛んで病院へ駆け、受付の女性の静止も聞かず父の居る病室に飛び込んだ。
点滴を打たれ、酸素マスクで口と鼻元を覆われ眠る見慣れた男が居たのだ。
「佐伯教授が担当医になってね。大学でもよく聞いてたから、結構安心した」
入院の手続きなどは自分が行った。
説明担当者から「医療勤めの方ですか」と尋ねられたのは今でも覚えている。
父の病名、状態、これからの治療方針の説明の際、自分がやけに理解が早い様子を見たからだろう。
医学生ですと答えれば、ああ、どおりで、と納得された。
「そのまんま佐伯教授が手術するはずだったんだけどねえ」
不思議なこともあるもんだね。
「…父の病気が悪化したの。本来の手術の予定日よりも早めに手術をしなきゃならなくなった。」
色素が剥がれた三年前の記憶。それでもゆるりと思い出していく。
――――――――
―――
「…なので、予定よりも早めて手術をしなければ…」
「……大丈夫なんですか？」
「…。」
「父は…父は…。助かるんですか」
「……医学生の貴女なら、それは分かっているのではありませんか。」
「分かりません。だって私は知識を蓄えただけの人間にすぎません。経験なんかない。
…私は…医者じゃない……」
だから医者のあなたに聞いているんだ。
ぼさぼさの黒い長髪が、あまりにも痛々しく見える。
眼中肉中背の白衣の男が、そんなAの姿から目を逸らす前に、彼女は俯いた。
肩が震えている。説明を任されただけのその男は、ただ苦しげな顔をして言う。
「…我々医者は、断言できないのです」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1836人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
理音(プロフ) - 更新して欲しいです！！待ってます！！ (7月16日 23時) (
レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
狐海(プロフ) - 更新楽しみに待ってます…！ずっと！！待ってます！！ (2023年4月20日 18時) (レス) id: ce22822f8d (このIDを非表示/違反報告)
理音(プロフ) - 続き気になります！更新楽しみにしています！ (2022年5月13日 19時) (レス) id: d1bb6ccd48 (このIDを非表示/違反報告)
積み荷 - すごく面白くて続きが気になって三回もコメントするDS民ですこんばんは！もう更新はされないんでしょうか…きっとお忙しいのだと思います、事情も知らない外野ですがなんか応援してます！ (2020年2月19日 1時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
昇降機 - めちゃめちゃ面白いですいつまででも待ってます…！原作も読みましたが面白かったです(影響受けた)続きを楽しみにしてます…！ (2020年2月5日 20時) (レス) id: 03bfdf54f9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2018年7月21日 20時
