第174話:生娘 ページ29
「Aちゃんさ、どしたの?」
「…はい?」
「ここ」
そういって看護師はAの額を見つめながら、己の額を指差す。
(え、)
どき、とAの心臓が高鳴った。
血液の流れがぎゅんぎゅん速くなる感覚。肌の奥が熱い。
すでに外来受付も終わろうとしている。この後は入院患者への回診だ。
診察室の後片付けをしている最中だった。看護師が綺麗なほどに地雷を踏んできたのは。
「な、何かついてます?」
極力Aはその狼狽えを表に出さぬように必死である。
器具を左手に持ち直して、右手でさっと額に振れた。
そんなまさか、そんなまさか。多少右手が震えてきたのを感じながら、指先で額をなぞる。
何か付着している様子はない。
看護師も、そんなAを眺めながらきょとんとした様子で否定する。
「違う違う。ずっと気にしてたじゃん」
「気に…?」
「診察時はともかく、隙あらばおでこ触ってたから。痛いのかなって」
「そ、れは…ちがく、て」
「?」
「やー、なんでもなくて!心配させちゃってすみません!大丈夫です!」
「そう?ていうか顔真っ赤じゃない?」
「えっと、熱くて!!この器具片してきますね!!」
「あっ、ちょっと…」
看護師の静止も聞かず、ばたばたとAは逃げるように診察室から出て行った。
奥の方で見守っていた速水も、「なんだあいつ」と言わんばかりに怪訝な顔をして見送っている。
器具を入れていたステンレスバッドの中で、器具ががちゃがちゃとぶつかりあっていた。
.
「あ〜〜〜………」
本日何度目か忘れたが、ぺたんと額を壁に押し付けて硬直する。
幸い周りに人は居ないので白い目で見られることもない。壁が冷たくて気持ちいい。
(まじか…ずっと触ってたのか私………そんな気、しなかったのに…)
至って自分は通常通りに業務をこなしていたつもりである。だが、所詮つもりだったらしい。
だが、記憶を探ってみても、額を気にしていた素振りがあった自分を見つけられない。
(………これじゃホントに生娘みたいじゃん……)
いや、生娘ですけども。
突然額にキスとかどこの少女漫画だちくしょう。
そんでもって無駄に意識してるとか、正直自分に幻滅してしまう。
「渡海先生のあほ……」
「誰があほだって?」
1477人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時