第168話:カンファレンス ページ23
あの患者の心室内の構造ははちゃめちゃなことになっていた。
要は高階が言った「ジャングル」は言い得て妙だ。
スナイプを挿入したとして少しでも心筋に振れれば、危険性の高い…致死性不整脈が起こる。
そうなれば向かうのは死だ。
極めて繊細な技術を用いる必要がある、が――
≪「君では無理、ということかな。」≫
≪「……」≫
≪「どうなんだ?」≫
≪「―――無理です」≫
きっぱりと言い放った高階に、院長は身を乗り出して抗議していた。
≪「高階先生…!せっかくのスナイプ手術ですよ!」≫
≪「無理なものは無理です」
そういえば、あの院長の背中に椅子を投擲してやりたい気分になったっけか。
見栄を張らずに無理だと言い放った高階に食い下がるあの老人の背中に、
お前は本当にそれでも院長かと叫びたくなった。
≪「――では 執刀は他の者に任せよう」≫
「Aーーー!!」
島津の叫びが、真隣で響いた。
「うぇっ!?!なに!?」
「何じゃなーい!聞いてる!?」
「聞いてるよ!そんな大きな声出さなくったって!」
「ずっと呼んでるのに返事しなかったでしょ!」
「えっ…、あ、ごめん……呼んでたの?」
「もー…これから外来でしょ…?しっかりしなさいよ…」
他の研修医も半ば呆れた様子で島津とAの掛け合いを見守っている。
例外として、世良のみ呆れているというより、心配そうである。
ただでさえ子犬のような愛らしい瞳を細めていた。
島津が肩を落とす動きが視野に入って、Aは再びごめん、と一言こぼした。
カンファレンスの出来事を思い返していただけなのだが、周りの音さえ意識から遮断していた。
島津はずっと自分を呼んでいたというが、Aは全く持って分からなかった。
こうして叫び呼ばれなければならないほど。
身体が限界に近いのだろう。脳にエネルギーが回っていない。
「もー、別に怒ってるわけじゃないんだって。ちょっとくらい寝てきな?」
「うん…、そうする」
朝方に佐伯からも寝なさいと言われたにも関わらず、結局一睡もしてない。
太陽光を浴びてもやはり睡魔は容赦なく蘇り、こうして自分の身を蝕んでいる。
昼食が終われば外来の手伝いや勉強に行かなければいけないのだ。追い払わねば。
(…………………仮眠室……)
行きたくないなあ、なんて思った。
「そういえば、Aが休んでる間おいしいケーキ屋見つけたよ」
「本当?今度行こうよ!」
「ちゃんと寝なね?」
「………はぁーい」
1478人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時