第167話:睡魔5 ページ22
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「おーい、Aー?生きてるかー」
「…………。」
「Aさーん?」
「……………Aです」
「ダメだこりゃ」
「ほら、ご飯食べなって」
「んー……」
はた、と目を開き、意識をなんとか引き戻すと周りの騒々しい音がようやく脳に届いてきた。
周囲にまとわりつく食欲をそそる匂いで、ようやく自分の腹が空いていることや、
自分の身が食堂に居ることに気付いた。
隣には島津、そのまた隣や、机を挟んだ向かい側にはいつも通りの研修医の面子がそろっている。
なるほど、昼らしい。
目の前にはすでにトレーに置かれたおいしそうな昼食が居座っているが、
いつ自分がこれを持ってきたのか覚えていない。
「Aー?大丈夫?寝てないの?」
「……いや、うん…大丈夫…ごめんね……食べよう…」
「そう…?」
「うん。いただきまーす…」
その声にいつも通りの覇気はない。
常においしそうに食事をとっているはずの彼女だが、今日はただゆっくりと咀嚼している。
周りの研修医も昼食を口にするが、特に世良は忙しなくAの様子を盗み見ていた。
「……そういえば、私どうやってここに来た?」
「ここにいるみんなに引きずられて」
「まじか……ありがとうね…」
「なんで寝てないんだよ」
Aの様子に速水が毒づく。
田口や北島、島津も気になっているようで、Aに一斉に注目している。
「いやー…色々とやってたら時間だけが過ぎて行きまして…」
「カンファレンスの時はしっかり起きてたってのに」
「………かんふぁれんす、…」
「えっ、カンファレンス覚えてない?」
「……や、覚えてる…それは覚えてる」
Aは現状、覚えていないことの方が間違いなく多い。
どうやってここに来たかも、どうやって昼食を運んできたかもわからない。
なんだったら今が何時さえも分からない。
だが、思い出せることはある。
「…田村さんのスナイプ手術、渡海先生が執刀医って…」
「ああ、それは覚えてるのね。今さっきも言ってたところだけど」
「そうそう。今までは助手って名目だったのに、って話してた」
「そんな話してたの?」
「あ、そこは聞いてないのね…」
≪「隼人さんの心臓ですが、肥大型心筋症で心室内が正常な心臓とは異なり――」≫
緊急で開かれたカンファレンスにて、高階が難しい顔をして皆の前に立っていたのも覚えている。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時