第166話：睡魔4 ページ21
光が反射する。日差しが二人の間を通る。佐伯は、そのAの表情を見逃した。
「本当に迅速でした。私がミスしても、ただ邪魔って一言だけ切り捨てて。
…無力だな、とかって直接言われるより心に刺さりました。
糸結びとか、本当速くて…目が、足りないくらい…」
「……。」
「でも、今にはじまったことじゃないので」
瞬間。Aは佐伯から視線を外して、地平線の方へ向き直る。
「最初は結構参りましたけど。今はもう、食い下がってやろう、って決意してます」
「…そうか」
佐伯はわざわざ彼女の表情を覗こうとはしなかった。その声色だけで、彼女の表情は予想できる。
その声の澄み方も、声の上がり方も、本当によく似ている。
「―――、」
「……えっ？」
その呟きは、風に呑まれていく。しかしAの聴覚はそれを逃さなかった。
目を見開いて、佐伯の横顔を見つめた。
「うん？なんだい？」
「あの…」
「さて、そろそろ行こうか。戻ったら、少しで良いからちゃんと仮眠をしなさい」
「きょうじゅ、」
「Aくん」
Aの狼狽に佐伯は耳を貸さない。しっかりと名を呼ばれて、Aは口をぱたんと閉じた。
「君には期待しているよ」
Aが佐伯に言葉を挟む余裕はなかった。佐伯がそれを奪い取ったのだ。
誘われるまま、Aは佐伯の後をついていくように屋上から姿を消す。
廊下までやってくると彼はでは、と一言いれてAの目の前から去って行った。
廊下に取り残されてなお、彼女は呆然としていた。
何も言えなかった後悔よりも、不可解さがAを弄ぶ。
(………似ている、って言われた…)
似ている。父と。自分の父と。
確かにあの男は、己の父の名を最後に口ずさんだ。
≪「悪いな、佐伯」≫
≪「私は医者だぞ。当然のことをしているだけだ。それよりも、彼女の方を案じるべきだろう。」≫
≪「はは。あの子は強い。大丈夫だよ」≫
(…結局、教授とお父さんの関係…全然知らない…あの時、結構親しげに話してたけど…)
三年前。広々とした病室。
ベッドの上で衰弱した様子を見せる父と、
白衣を着た佐伯が夜中に会話を交わしていたのを、Aは扉の隙間から見ていた。
結局逃げるようにその場から去ってしまって、あの会話も聞かなかったことにしていた。
父のことを知る唯一の機会であったはずなのに、結局Aは逃げた。
今もなお、佐伯には己の父についてなにも訊ねることができなかった。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです！ (2018年9月22日 11時) (
レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが（海堂シリーズ読破者としては特に！）、渡海先生…渡海先生…orzってなります…（笑） へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます！！ありがとうございます！ そうなのよ奥さん！不思議ね！！ (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…！Ｋさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん？？ (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている！！！作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) （そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…！） (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…？！(笑)渡海先生の問答で｢美しい…｣の答えに｢…はい｣の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです！ (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2018年6月14日 0時
