第165話:睡魔3 ページ20
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怒られないのだろうか。
多少の不安がよぎる程の余裕はある。
地平線の向こうからのぞく太陽光を眺めたからだろうか。少しだけ眠気がとれた気がする。
柔らかな紫色の空が、Aと佐伯を焼こうとしていた。
「こんなふうに堂々と屋上にあがったの初めてです」
「褒められたことではないがね。内緒だよ」
「はぁーい」
元々ドクターヘリが着陸する場所である。そう簡単に身一つで足を運んでいい場所でもない。
だが、佐伯が「いいから」といって、二人はこうして屋上へやってきた。
(まあ…佐伯教授がいい、っていうなら…いいんだろうな…)
Aは柵にもたれて、ごうごうと空を駆けて行く飛行機の音を聞きながら目を閉じた。
風が吹いた。やたらと冷たくて、あの日の深夜が唐突に脳裏に浮かんだ。
(あー、ダメだダメだ)
頭をゆるゆると振ってそれらを取っ払う。今だけは別のことを考えようと少しばかり懸命になる。
「どうかしたかい」
「いえ。ちょっと眠気がとれたなぁと」
「それはよかった。ところで、渡海の前立ちをしたそうじゃないか」
その言葉の意味を理解した瞬間、ぎぎぎ、と錆びたロボットのようにAの顔が佐伯に向いた。
教授は優しげな笑みを浮かべてAを見ている。
落ちたい。今すぐこの柵から身を乗り出して落ちたい。つまり逃げたい。
Aは一気に不穏な願望を募らせる。
前立ち。一概に言えば第一助手。文字通り、執刀医の向かい側(前)に立つ者。
教授は今、「失敗」が起きたあの手術の件について尋ねているのだ。
「……はい、そうですね…。前立ち、っていうか…その…大したことは、してないんですけど…」
「そうかね。黒崎から大体の話は聞いたのだが情報違いだったかな」
佐伯の淡々とした物言いに、すー、と綺麗な音を立ててAの血の気が引いていく。
…これは、あの失敗を、咎められているのだろうか…。
「………私は…」
「顔をあげなさい。私は責めているのではない」
「……」
いつの間にか、Aは足元を見つめていた。
佐伯がそっとそれを指摘してやると、Aはその情けない表情のまま佐伯を見上げた。
「どうだった、と私は聞いているのさ」
「……どう?」
「彼の第一助手として」
「…………率直に言っても?」
「もちろん」
「……しんどい、です」
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時