第57話：荷物 ページ10
「でも、さすがに荷物忘れていくっておかしくない？」
「んー…」
その話を聞いていた連れのもう一人の女性研修医は首を傾げる。
Aの荷物を目撃した方も同意見ではあるようだが…。
「何か目的があって置いて行ったのかもしれないし…
まあ、先生に聞いてみるよ。じゃあねー」
研修医二人は医局を出ていく。その背中を見送り、
世良も同様に回診へ向かうため白衣に腕を通しファイルをいくつか腕に抱えた。
(…てか、先生ってまさか渡海先生？)
だとしたら、あの研修医はだいぶ度胸があるなと思う。
A同様に、お人好しな人物なのかもしれない。
なぜ「自分が届けに行くよ」、と言えなかったのだろう。
常にずばずばと素直に言うくせに、ついでに周りをヒヤヒヤさせるくせに、
こんなところで変にヘタレだ。
≪「お前と同じだ」≫
自分と、同じ。
ふと、カンファレンスが終わった直後の、彼の言葉を世良は思い出す。
そして、Aが仮眠室に入っていく時の最後の表情も。
彼の言葉で、ようやく合点がいった。だから、気分が沈んだ。
世良は、Aのあの不安げな表情と震えた肩に既視感があった。
(あれは、かつての自分だ)
人を殺してしまったという現実。
ああ、殺してなどいない。実際に彼らは今も生きている。
けれど、渡海という存在が居なければ、救えなかった。殺していた。自分は何もできない。
そんな絶望と現実を真っ向から受けて、ただ震えるしかない子羊。
あの時の自分を鏡合わせで見たわけではない。
だが、Aの様子は、まさについ数日前の自分だった。
渡海は、Aに自分の時と似たような形で試練を与えたのだろう。
先が真っ暗になるような、崖の下へと蹴り落とすような試練を。
息が出来なくて、手を伸ばしても掴んでくれなくて、溺れそうな焦燥感でいっぱいになる。
世良は、一足先にあの試練を乗り越えている。…本当に最近の話だが。
乗り越えたといっても、克服したとはいわない。思い出しては震える。
患者の命を失うかもしれないという危機感は、絶対に慣れてはいけない。
これからも自分の無力さを嘆くのだろうし、渡海に縋るしかない日々はまだまだ続く。
(それでも)
それでも、歩き続けていくと決めたのだから。
彼女と話をしよう。きっと、話を聞くぐらいなら出来るから。
自分は、そういう意味ならちょっとした先輩だ。
(けどまずは、仕事だ)
世良は力を入れ直し、回診という名の仕事に身を投げた。
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K(プロフ) - 夢喰。さん» 続編出ました！（笑）次はもうちょい甘々を詰めていきたいと思っています…！！楽しみにしてくださっていて本当に嬉しいです！！頑張っていきます！！(*ﾉωﾉ) (2018年5月22日 21時) (
レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰。(プロフ) - 続編が出ると聞いてきました！！やっぱり甘さが欲しくなりますね(*´°`*)渡海先生が夢主のことをどう思ってたりするのかとか...！楽しみで仕方がありません！！！この小説が大好きです！！ (2018年5月22日 16時) (レス) id: eb55596a4e (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - えりかさん» 大好きと言って頂けて、感謝するばかりです！！続けざまにコメント返信してすみません！（笑）いっぱい感想頂けたのでつい…！！これからもガンガン頑張っていきます(*´∀`*)！ (2018年5月21日 23時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - えりかさん» ああ〜〜いっぱい感想ありがとうございます(´；ω；`)本当に嬉しいでずー！！筋も、自分なりに頑張って組み立ててるのですが、くどいかなぁーとたまに不安だったので、そのお言葉を頂けて本当に嬉しいです。渡海先生も魅力的に伝わっているようで安心しました…！！ (2018年5月21日 23時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
えりか - ブラックペアンが好きで、あ、渡海先生が好きで、あ、ニノが好きで読ませて頂いてます！ほんとに筋書きがしっかりされててほんと読んでて飽きません！そして、とっても渡海先生が魅力的です！笑 ほんとにこの作品大好きです。たくさん感想を言いたいのにもう文字数が笑 (2018年5月21日 23時) (レス) id: ad8be1e361 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2018年5月10日 0時
