指導医はオペ室の悪魔2【ブラックペアン】

第89話：電話3 ページ42

「………んん？？」


Aは画面を二度見する。
どれだけ目を凝らしても、凝視しても、ディスプレイに移る漢字は変わらない。


(お母さんの電話に出ろって…こと…？)


そんなまさか。さすがに親からの電話を赤の他人に任せてどうするんだ。
渡海への疑問は絶えないが、しかしコール音は鳴り続けている。
このまま時間が経ってしまえば切れてしまう。


「電話来たら出て、って話だったしな…」


あとで問い詰めよう。そう思いながら、Aは応答ボタンをスライドする。

今更ながら緊張してきた。母って。さすがに予想外過ぎる。
Aはベッドの上でぺたんと座り、背筋を伸ばした。


『あ、もしもし？』


スピーカーの向こうから聞こえるのは、どこか甲高い老婦人の声。
なるほど。自分の母親も、今頃はこんな感じの声だったんだろうか？


「あ…と、もしもし？」
『あら…、あら？征司郎じゃない…？』


こちらが声をかけると、向こうの女性は一瞬驚いて息を詰まらせる。
彼女すぐに声色を少し変えて、不思議そうに電話相手――Aに声をかけた。


「A…AAと申します。いつも渡海先生には御世話になっております。」
『これはご丁寧に…。失礼致しました。渡海征司郎の母の、渡海春江です。』


渡海の母と名乗る彼女は、最初の様子こそどこにでもいるような元気な母親のようだったが、
こちらが丁寧に挨拶をすると、非常に気品のある女性の様に変化する。


「実は、渡海せん…、征司郎さんから、携帯を預かっておりまして。
　電話が来たら出てほしい、とお伝えされまして…。
　その為、この度は僭越ながら私が応答させて頂きました。」


つい渡海先生、と口走りそうになったが、この方も「渡海」だ。
区別する為、Aは呼び慣れぬ渡海の名前を呼んだ。
……じわじわと何だか恥ずかしくなってきた。


『あら、そうだったのですね…。本当にごめんなさいね。』
「いえいえ、とんでもない。」


緊張で胃が縮みそうだ。電話しているだけなのに、背筋を貼り過ぎて痛くなる。


『彼は今、席を外しているのかしら？』
「はい。どこに行ったかまでは……」
『ああ、良いのです。彼の調子を窺いたく、お電話したまでです。
　……あの、少しいいかしら』
「？ はい、なんなりと」


電話に出ることを了承したのはこちらだ。
Aは母親の要望を受け入れる。

息子に対する伝言か何かだろうか、とAは身を構えた。


『…彼、うまくやってるかしら？』

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