指導医はオペ室の悪魔2【ブラックペアン】

第82話：暇を持て余す2 ページ35

既読はつかない。まぁ勤務中だろうし、帰宅した後にでも確認されるだろう。
他にも通知があったので覗いてみると、花房からもチャットが来ていた。


(美和ちゃんだ)


問答無用で開く。


花房美和風邪、お大事になさってくださいね。今度またご飯食べに行きましょう。
Aありがとう!ちょっと楽になったよー!今度は私のオススメ行こ!


他にもちらほらとどうでもいい通知やスタ爆があるが、今は無視しておく。
スマホの画面を見つめていると、ものの数十秒だというのに目頭が痛くなってくる。


(やっぱこんな状態で文字見るのはきついか)


電子機器との戦いの幕は案外あっさり終わってしまった。

スマホの電源を落とし、足元に置いた。

ああ、イヤホンとか持ってきておけばよかったなあ。
音楽ならば何も思わず聴けたろうに。


「…。」


聞いてみたいことも、今は聞けない。自分が弱いうちは聞きたくない。
彼の答えによっては、今度こそ私は医者という立場から逃げてしまうかもしれなかった。


(なんで、私に縫合を、とか……聞けない……)


頭を使うのはただ悪化させるだけだ。
今考察するのはナシだし、自分で考えるぐらいだったら渡海に聞いた方がいい。
答えてはくれないだろうけど。


(明日…、は、たぶん家で休んでるから…明後日か。
　患者さんの様子、見に行きたい…)


風邪など引かなければ本日は真っ先にあの患者のもとへすっとんでいっただろう。


それで、

たぶん、


(私の失敗なんて、なかったかのように)


きっと、動いて、話して、笑って、活きて、生きて、いる。


私がどれだけ失敗しようと、渡海先生は絶対に患者を救うんだ。

…あれは失敗に入るのか、と聞かれるだろうが、失敗だ。

いくら研修医の身分とはいえ、やったことはやったこと。

そして、ちゃんと縫合できずに、血があふれたのも事実。


(…しばらくは、大動脈の遮断解除に怯えるんだろうな…。)


いや、それだけではきっと足りない。


(手術、すらも、)


そこまで考えて、なんだか身が重くなってきた。
泣きはしない。ただ胸が浅く傷つけられるようで、辛い。

こつん、と膝に額をぶつけるように、Aは俯く。

しばらくそうしていた。


「おい」
「ふぁい！？」

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