第74話：なんでもない ページ27
猫田もこんな心境だったかもしれない。Aの熱がうつったのかもしれない。
のんきに寝息を立てるAの薄い唇を、親指の腹ででそっと撫でた。
「ん…っ」
くすぐったかったのか、彼女は恥じらうように額を渡海の胸元にこすりつけた。
やがて安心したように大人しくなると、小さな寝息が渡海の耳にも届く。
ああ、本当に―――こいつ、どうしてやろう。
押さえていたはずの好奇心が溢れ出してくる。
「A」
それは悪魔の囁きだった。
渡海は、もう慣れた様子でAに顔を近づける。
水分補給ではない。これは、なんでもないこと。
触れるだけの口づけだった。
愛おしむように、あるいはこれからが地獄だと薄ら笑いを浮かべるように。
甘い香りと彼女の唇の感触に少し名残惜しさを感じながら、渡海はゆっくりと唇を放し、
彼女の上半身を横たえさせた。
もし自分に熱がうつっていたら、つきっきりで面倒を見てもらおう。
きっと帰さないし、彼女は帰らないだろう。
あたふたと自分を看病する姿が目に見える。
自分のせいだ、とか、くだらない罪悪感に呑まれて渡海の傍を右往左往するに違いない。
…あの手術室での血の気のなさよりはマシな顔色で。
目を閉じれば、噴き上げた血と現実に硬直するAの真っ青な表情。
渡海はあの表情をよく知っている。
自分が指導医としてついた研修医たち。
彼らの多くはあんな顔をしたのち、最終的には全員尻尾を巻いて逃げていった。
死んでいった。
渡海はそれを意気地なしと悪態をつくこともなかったし、意識にすらない。
今のところ、逃げていないのは世良とAだけか。
(あー、眠い…)
途端、ふあ、と渡海はあくびを一つする。
ああ、懐かしい何かを思い出していたような気がするが、忘れてしまった。
ま、思い出せないということは、なんでもないことなんだろう。
寝よう、とベッドから立ち上がろうとして、止まる。
ふと、彼女をこのままここで寝かせていいものか、と思い及んだ。
とても今更だが。
朝昼の時間帯は相当なことがない限り、仮眠室にやってくる者はまずいない。
例外として猫田だが、今彼女には事前に知らせてある。
夕方――この時間以降になると、仮眠室に出入りしてくる職員はそれなりに居る。
世良を筆頭に。
「渡海先生、失礼します。Aさんの鞄、……が………」
「………。」
「………………………………。」
…世良を筆頭に。
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K(プロフ) - 夢喰。さん» 続編出ました！（笑）次はもうちょい甘々を詰めていきたいと思っています…！！楽しみにしてくださっていて本当に嬉しいです！！頑張っていきます！！(*ﾉωﾉ) (2018年5月22日 21時) (
レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
夢喰。(プロフ) - 続編が出ると聞いてきました！！やっぱり甘さが欲しくなりますね(*´°`*)渡海先生が夢主のことをどう思ってたりするのかとか...！楽しみで仕方がありません！！！この小説が大好きです！！ (2018年5月22日 16時) (レス) id: eb55596a4e (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - えりかさん» 大好きと言って頂けて、感謝するばかりです！！続けざまにコメント返信してすみません！（笑）いっぱい感想頂けたのでつい…！！これからもガンガン頑張っていきます(*´∀`*)！ (2018年5月21日 23時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - えりかさん» ああ〜〜いっぱい感想ありがとうございます(´；ω；`)本当に嬉しいでずー！！筋も、自分なりに頑張って組み立ててるのですが、くどいかなぁーとたまに不安だったので、そのお言葉を頂けて本当に嬉しいです。渡海先生も魅力的に伝わっているようで安心しました…！！ (2018年5月21日 23時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
えりか - ブラックペアンが好きで、あ、渡海先生が好きで、あ、ニノが好きで読ませて頂いてます！ほんとに筋書きがしっかりされててほんと読んでて飽きません！そして、とっても渡海先生が魅力的です！笑 ほんとにこの作品大好きです。たくさん感想を言いたいのにもう文字数が笑 (2018年5月21日 23時) (レス) id: ad8be1e361 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2018年5月10日 0時
