第4話：元指導医2 ページ6
そんなAの様子を見て、垣谷は改めて後悔していた。
…とても物覚えも良く、必死についてくる研修医だ。
叱ればそりゃとてもヘコむ。
繊細な面もあるが、しかし己の失敗を飲み込んで、次に繋げていく。
特記して聡明、というわけではない。いや、もちろん頭は良いのだ。
速水の方が成績としては良い、島津も同様に聡明。田口も人の話をよく聞いている。
垣谷が優れていると思ったのは、その人間性なのだ。
明るく人懐っこい。先輩にも同じ研修医にも、分け目なく接する。
世良と並べば大型犬と小型犬だ。
思いやりに溢れ、結局、Aを突き動かす原動力は患者という存在。
「救いたい」。その一心で、彼女はここにいる。
将来有望な研修医だと、垣谷は思っている。
どこに出しても恥ずかしくない教え子だった。
何より、もうひとつ、優れているもの。
(……こいつ、手先が非常に器用なんだよな)
どの医者としても命となる「手技」。
彼女が佐伯外科にやってきてから、外科としての基本手技などはちゃんと同伴して見てきた。
驚くべきことは、どれも綺麗に成功していること。
基本、動脈採血やカテーテルの挿入、穿刺、縫合……
まあ、つまり手先が命になる、そんな手技があるのだが、
Aは非常にそれらの呑み込みが早く、最低限の見学のみで見事にクリアしていった。
針を刺す角度、挿入の正確さ、部位の見つけ方、縫合閉鎖は非常に綺麗で迅速で。
そういう意味では誰よりも優れていると、垣谷は思っている。
彼女が内科の方で研修しているときも、ちらりと噂は聞いていたのだ。
「非常に手先が器用な研修医が居る」と。
まあ、基本手技の呑み込みが早い研修医など今までたくさんいるし、これからも出てくる。
たまにベテランでも目をひくほどの研修医がやってくる、というだけで、
その時は垣谷もあまり気にしていなかったのだが、
(いや、まさかあそこまでとは思わなかった)
いくら内科で似たような経験があるとはいえ、
Aの手さばきは研修医としては非常に見事だったのだ。
「垣谷先生」
「ん？」
「いや、垣谷兄貴！」
「おっ、おう？」
垣谷があれこれと考えているうちに、Aはずずいと身を乗り出す。
目は真っ赤だが、もう泣いていない。
その勢いに垣谷は少し動じたが、Aは勢いを減らすことなく続けた。
「私にとっての先生は兄貴ですから！」
Aは真剣だ。垣谷は今度こそおかしくなって笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 859人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
K(プロフ) - まきさん» ここにも原作を読んでいる方が…！同士よ…！！ 小説も楽しみにしていただいてありがとうございます！ゆるーい感じで楽しんでやってください！ (2018年5月11日 16時) (
レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
まき - こんにの〜Kさんの、小説大好きです！！私も、原作読了してまして、この小説の次の展開と、ドラマを楽しみにしてます！ (2018年5月10日 21時) (レス) id: db7ab848e3 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 萌さん» ふおおお、なんと…！！！本当にうれしいです…ありがとうございます(；ω；) えええ！！周りに原作を呼んでいる方が少ないのでとても感激…！！！ドラマも共々に楽しんでやってください…！！！(*／ω＼) (2018年5月5日 22時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
萌(プロフ) - こんばんは(._.) K様の小説がとても好きで、初めてお気に入り機能を使っちゃいました！ちなみに、私も原作読了しておりまして、この小説のこれからの展開をドラマとともに楽しみにしております！ (2018年5月5日 20時) (レス) id: ff80283c46 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 甘楽さん» もったいないお言葉…！！！応援ありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです！！今後の展開も見守ってやってください(*^▽^)/ (2018年5月5日 16時) (レス) id: 8206d0720a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2018年5月3日 1時
