プロローグ ページ2
「ああ、Aくん」
隣を横切った准教授が彼女の名を呼ぶ。
Aは急ぎ足だったそれを止めて、己を呼んだ黒崎の方へと振り返った。
「はい」
黒崎は実質、佐伯外科内におけるトップ2だ。
さすがに、研修医であるAの身体は強張る。
黒崎の表情は特に真剣でもなんでもない。軽い要件のようだ。
なんかしたっけ、とAは一瞬不安に思ったが、そんなことはなさそうだ。
「君の指導医が変更される。」
「え？」
指導医。
研修医である自分たちにとって必要不可欠の存在。
場合によっては、研修医にとっての分岐点。
この指導医で研修医のすべてが変わるというわけではない。
だが、入局したてで不安もある中、指導医というのは研修医にとって心強い存在になる。
(垣谷先生…優しい指導医なのに…)
Aの指導医は垣谷雄次「だった」。
面倒見がよく、少し熱血的なところもある。
Aはそんな彼を頼れる教師のように慕っていた。
彼が指導医だと伝えられた時は、もちろん不安があった。強面だし。
…今じゃすっかりあの人以外の指導医は嫌だと思うほど、彼の存在は心強かったのだが。
「誰でしょう？」
Aは黒崎に問う。瞬間、黒崎の顔色に変化があった。
目を見開いて、Aの背後を見ている。
どうしたのだろう、と疑問が生まれる前に、ドン、と右肩に重みを感じた。
「よォ、Aちゃん」
――――――ひゅっ、と息が詰まる。
心臓がばくばくと鼓動を速める。まるで内臓を打ち付けているようだった。
「……そいつだ」
黒崎は苦笑する。
用はすんだとばかりに、そして、少しの同情も込めてか、
ポン、と黒いクリップボードでAの左肩をはたく。
黒崎教授の足音が過ぎていく。ここに居るのは、ふたりだけだ。
廊下はしんと静まり返っている。
右肩が重い。それもそうだ、体格差のある男が腕をかけているのだから。
「…どうして、あなたなんです」
「喜べよ、『憧れの渡海先生』だろ？」
「誰が…！！」
今の言葉に、Aは僅かな激情を見せていた。
Aは彼の腕を振り払おうと、己の右腕を振り上げ、彼へ振り返った。
距離を取ろうと一歩下がる。 が、ぱしりと右手首を掴まれた。
「いっ」
ミシッと右手首からは嫌な音がした。
目の前で、悪魔が静かに微笑んでいる。
(―――――ああ、)
誰か嘘だと言ってくれ。
これは、悪魔に捕まった人間のお話。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 859人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
K(プロフ) - まきさん» ここにも原作を読んでいる方が…！同士よ…！！ 小説も楽しみにしていただいてありがとうございます！ゆるーい感じで楽しんでやってください！ (2018年5月11日 16時) (
レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
まき - こんにの〜Kさんの、小説大好きです！！私も、原作読了してまして、この小説の次の展開と、ドラマを楽しみにしてます！ (2018年5月10日 21時) (レス) id: db7ab848e3 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 萌さん» ふおおお、なんと…！！！本当にうれしいです…ありがとうございます(；ω；) えええ！！周りに原作を呼んでいる方が少ないのでとても感激…！！！ドラマも共々に楽しんでやってください…！！！(*／ω＼) (2018年5月5日 22時) (レス) id: ef8449c676 (このIDを非表示/違反報告)
萌(プロフ) - こんばんは(._.) K様の小説がとても好きで、初めてお気に入り機能を使っちゃいました！ちなみに、私も原作読了しておりまして、この小説のこれからの展開をドラマとともに楽しみにしております！ (2018年5月5日 20時) (レス) id: ff80283c46 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 甘楽さん» もったいないお言葉…！！！応援ありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです！！今後の展開も見守ってやってください(*^▽^)/ (2018年5月5日 16時) (レス) id: 8206d0720a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2018年5月3日 1時
