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君からまた、手紙が来ている。
真っ白な封筒には、君の名前と僕の名前だけが殴るようにして書かれていた。
きっとこれを届けに来る時も走っていたんだろうな、なんて一生懸命な君の姿を想像して、僕はクスリと笑った。
破れないようにそっと封をはがすと、出てきたのは、ポツリポツリと所々に濡れた後のような染みがある分厚い便箋と、安っぽい苺の匂い。どうせ三百円もしないような、親戚の子供に貰ったとかの安物の香水の筈なのに、何故だろうか。優しくて暖かい君自身がそこにいるような気がして、酷く泣きたい気分になる。
はらり、とおもむろに便箋の一枚目をめくると、そこは濃い筆圧の少し汚い字で、びっしりと埋め尽くされていた。パラパラとめくってみるが、他の便箋もどれも同じ。
思わずふっと、笑みが溢れる。何て云うか、こう、「いつも通り」で。
文面から伝わってくる、君の必死さや一生懸命さ。そんな所が好きなんだ、なんて。
「言えるはずなんてないけど、さ。」
小さな独白は、誰にも気付かれる事のないまま、激しい雨の轟音にかき消された。
ふぅ、とゆっくり深呼吸をして、自分を落ち着かせる。それから、僕は手紙を読み始めた。
背景どころか挨拶も、宛名すらない、良く言えば簡潔な、悪く言えば質素な文章。内容は、両親の事とか、仕事の事とか、明日の晩御飯の事とか、
……彼氏の事、とか、君の声の事、とか。
全ての話が必死さ故につまらなく、心苦しい。この分厚くて窮屈な手紙を、僕は捨てる事など決して出来ないんだろうな、などと考えて苦笑した。
三十分程かけて一通り読み終え、そっと吐息をつく。
四十幾つかの悩み事。その中で、僕の名前は只の一度も出て来なかった。否、別に、良い。それも、いつも通りのことだ。
この手紙は、君の、君による、君の為だけの手紙。そこに、僕は含まれてはいない。
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空ノ寂(プロフ) - 洋子＠honeyworksさん» ありがとうございます！そう言っていただけて、光栄です！ (2017年12月31日 21時) (
レス) id: 6114dac4c8 (このIDを非表示/違反報告)
洋子＠honeyworks - アドバイスのところから来ました！とても綺麗で、繊細な文章、ストーリーだと思いました。感動しました。 (2017年12月31日 21時) (レス) id: 18955702f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：空ノ寂 | 作成日時：2017年12月24日 23時
