１３８話 ページ1
玄関を蹴破るような勢いで開け、姉の部屋へと足を向けた。途中でレイジに何事かと叫ばれ、今日ほどこの弟を鬱陶しいと思った日は無かった。
姉の部屋は屋敷の端、最も遠い位置にある。面倒だと思うその距離も、今は何よりもの救いだった。
はっ、はっと肩で息をし、髪を乱れさせる姉の姿が目に入った。先程、姉はヴァンパイアである俺達を長時間近づけさせなかった。いくら公共の場で人の目があるからとはいえ、本能が欲してしまえばその砦は簡単に崩れやすい。
あんな場所で、正気を保たせて居られる所か、誰よりも働いていた。無理をするどこの話ではない、気が狂いそうな感覚なのだ。そこで見せた動きの代償が、これで済んでいると思えば安いのだろう。
それに……あの状況は、まるであの時と同じではないか。
玉の汗が白く細長い首筋をつぅ、と流れていく。
◇
「私……っ。Aさん……が」
シュウが見たことがない程に焦り、屋敷の中に消えていく姿を、ただただ震えて見ている事しか出来なかった。また何か自分はしてしまったのだろうと、働かない頭をどうにか動かそうとしても無駄な足掻きにすぎない。
「ユイ、目を閉じろ」
かたかたと震えが止まらぬ体に、温もりを持たない体が巻き付けられた。暖かな温度こそないはずなのに、それはしっかりと包み込まれ、徐々に体を落ち着かせてくれた。大丈夫だ、と言わんばかりに背を撫でる手が大きくて、あがっていた息も吸え始めた。何時もは子供のようなのに、こんな時だけずるいなと思いつつ、その優しさが嬉しかった。
「……あぁ、そうか」
背後から漏らされた、もう1人の声が、静かな夜に響き渡った。自分にかける時のように、作ったような明るさの声ではない。思わず漏れたかのような冷たくて、小さな声。
「にしても、姉貴があそこまで暴走するなんて珍しくないか。確かに無理もねぇし、俺達じゃ絶対に無理だけどあの姉貴があそこまで振り回されるか？」
スバルが不思議そうにそう放った。Aの精神力をもってしても抑えられなかった事なのかと。
「私はヴァンパイアじゃないから分からないけれど、あの時のAさん……血とは別に、苦しそうだった」
事故が起こった時もそうだ。あの瞬間から、何かがおかしかった気がしてならないのだ。
「ビッチちゃん」
記憶を遡る途中、その声によって遮られたような気がした。失礼極まりない呼び方が、いつもと違っていて、猫のような瞳は、いつもの彼と違う色を醸し出していた。
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さらら(プロフ) - 。 (2020年3月14日 23時) (
レス) id: 38606b6bbe (このIDを非表示/違反報告)
さらら(プロフ) - ユッパさん» コメントありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しいです。ここから創作部分が多くなってきますが、もし宜しければこれからも宜しくお願い致します (2019年7月26日 22時) (レス) id: 38606b6bbe (このIDを非表示/違反報告)
ユッパ - 感動しました。 とでも、すごいです！ (2019年7月24日 16時) (レス) id: 707a9255af (このIDを非表示/違反報告)
さらら(プロフ) - かなとさん» 申し訳ございませんすっかり忘れておりましたので修正しました。ご報告ありがとうございます。 (2019年3月26日 20時) (レス) id: 38606b6bbe (このIDを非表示/違反報告)
かなと - オリジナルフラグをお外し下さい (2019年3月26日 15時) (レス) id: 9afeebc6dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さらら | 作成日時：2019年3月26日 15時
