#43 想っていたい ページ6
私が彼の名前を呼べば、彼はうたた寝から目を覚ます時のように、ハッとした表情を浮かべた。
『私は大丈夫だから。落ち着いて』
諭すようにそう言えば、ゆっくりと周囲の気温が下がっていく。
先程まで、見たことがないほど切羽詰まった目をしていたフーゴ。その原因が私にあることは明らかなのだが、何が理由でそんなに焦っていたのかは分からない。
最初は、怪我をしたことを怒っているのだろうか、と考えた。でも、それにしては私を責める様子はあまり見られない。
じゃあ、迷惑をかけたことに怒っているのだろうか。……それもどこか見当はずれな気がする。
答えを模索していると、彼は気が抜けたかのようにため息をついた。
そして、背中に手を回し、私の身体に体重をかけて、顔を肩に押し付けてくる。
まあ簡単に言えば、抱きしめられました。
「……わりぃ、取り乱した」
いつもだったら弾き返すところだが、今日は私に非があるのですんなり受け入れる。
その温かい身体をなんとなく抱き返しながら、私は先程の問いの答えにたどり着いた。
彼なりに心配してくれたのだろう、と。
『……ふふ、ごめん。それに、服とか手当とか、ありがとう』
思い返せば、彼はいつだって優しい。
爆弾魔という凶悪犯罪者に対して使う言葉ではないかもしれないが、彼は確かに仲間思いないい人だ。
でも、素直じゃなくて、はっきり言葉にして伝えることが苦手な照れ屋さん。
だから、こちらから意図を汲んでやることが大切なのだろう。
なんて面倒臭い人。……なんていつも通り悪態をつきつつ、理解はしている。
こんなにも私は、愛されているのだ。
なのに私は、彼にその愛を返すことができない。
『ねえ、フーゴはさ……私といて、不幸なんじゃない?』
あの時、リッパーは痛いところをついてきた。
聞かれたくないこと。自覚したくなかったこと。
私がいくら代償を拒もうと、それは呪いのようにいつまでも私を蝕み続けるのだから。
彼が知らないどこかで苦しんでいても、彼にそれを隠す気があるのなら、私がそれに気付くことはきっとない。
そうやって、私は知らない間にフーゴの優しさに甘えてばかりいるんだろう。
「まあ、お前と会う前よりはそうなんじゃねーか。こうやって怪我ばっかりしてくるし、気が気じゃねぇ」
なんでもないように、軽くそう言うフーゴ。
こうして今日も、私は彼の優しさに救われている。
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あゆ - 授業中なのに、あそこまで描けるっていう...ヤバ...(語彙カ) (2019年1月7日 8時) (レス) id: 072ca93e4c (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 夜桜美月さん» コメントありがとうございます!やっぱり描いちゃいますよねぇ…笑 でも今は一番前の席になっちゃって、先生の目の前なので描けなくなりました(´ー`) 無念です。 (2018年3月2日 19時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜美月(プロフ) - いつも楽しく見てます!落書きのレベル高!その画力を恵んでくだせぇ。授業中絵描いちゃいますよね。机とか、そして見つかる\(^o^)/ (2018年3月2日 19時) (レス) id: 20b5aa4547 (このIDを非表示/違反報告)
メイ - ccさん» いえいえ!質問に答えてくださってありがとうございました!これからも頑張って下さい! (2018年2月24日 12時) (レス) id: b6d44dcbc7 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - メイさん» 応援と質問ありがとうございました!これからも頑張ります(*^o^*) (2018年2月24日 7時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:cc | 作成日時:2018年1月14日 18時