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__慣れた手つきで包帯を巻く。
右胸を覆う火傷跡に目を奪われかけてしまい、慌てて目を逸らした。
「いてぇっ! もうちょっと丁寧に巻けよ!」
『文句が多いなぁ! 怪我してきた馬鹿はそっちなんだから手当てしてもらってるだけありがたいと思いなさいよ!』
フーゴの私室、ベッドの上。
あの甘い雰囲気から一変、私たちはいつも通りの口喧嘩をしてぎゃあぎゃあと騒いでいた。
事の発端は、フーゴが「ちょっと頭冷やしてくる」だのなんだのと言って外に出て行ったことだった。
数十分後、何故か彼は腹部と背中を中心としたあちこちに傷を負って帰還。
甘美なムードは何処へやら、私は大急ぎで彼の手当てを開始することになった。
話を聞くに、彼は歩いた先で1人の警官と出くわしたらしい。
適当にまいて逃げようとしたが、そいつが思った以上に強かった、とのことだ。
彼の傷を見るに、“思った以上に強かった”じゃ済まないと思うのだが……。
「……それにしても。頭冷やしに出て正解だったかもな」
『は? 大怪我してきといて何言ってんの? 不幸になれとは言ったけどわざわざ不幸になりに行かなくてよくね?』
フーゴの妙な物言いに、私は思わず包帯を巻く手を止めた。
すると彼は__私の髪をひと束掬い上げ、耳元で囁く。
「怪我を負って冷静になんねぇと、俺、何し出したかわかったもんじゃねぇからな」
あの嫌味な笑みを顔に貼り付け、彼は私の目を見つめる。
言われた言葉の意味がよく分からなくて、幾秒か__フリーズ。
そして意味を察した瞬間、私はフーゴの身体を思いっきり突き飛ばした。
「いっってぇっ! おいおい、こっちは怪我人だぞ!?」
『な、何をする気だったのかは知らないけど! そういうのはちょっと刺激が強すぎるんです……!』
また始まった口喧嘩。でもそれはいつも通りではなく、互いに顔を赤らめての、照れ隠しの口論のようなものだった。
__だから私たちは気がつかなかった。
扉の向こう側から、コトン、と何かを置いた音がしたことに。
「こ、これでいいのかな……」
「ふむ。中々絵になるじゃあないか」
「あいつら、今日は一段と騒がしいな」
“ボマーとAへ 廃製鉄所一同より”
……そう書かれたメッセージカード付きの、桃色のデンドロビウム・ファレノプシスを活けた花瓶が扉の向こうに置かれていたことに。
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あゆ - 授業中なのに、あそこまで描けるっていう...ヤバ...(語彙カ) (2019年1月7日 8時) (レス) id: 072ca93e4c (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 夜桜美月さん» コメントありがとうございます!やっぱり描いちゃいますよねぇ…笑 でも今は一番前の席になっちゃって、先生の目の前なので描けなくなりました(´ー`) 無念です。 (2018年3月2日 19時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜美月(プロフ) - いつも楽しく見てます!落書きのレベル高!その画力を恵んでくだせぇ。授業中絵描いちゃいますよね。机とか、そして見つかる\(^o^)/ (2018年3月2日 19時) (レス) id: 20b5aa4547 (このIDを非表示/違反報告)
メイ - ccさん» いえいえ!質問に答えてくださってありがとうございました!これからも頑張って下さい! (2018年2月24日 12時) (レス) id: b6d44dcbc7 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - メイさん» 応援と質問ありがとうございました!これからも頑張ります(*^o^*) (2018年2月24日 7時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:cc | 作成日時:2018年1月14日 18時