【被虐のノエル】愛したい、愛せない 2 【フーゴ・ドレッセル】

#59 負けられない ページ25

製鉄所のさ、あの……ほら、あそこあるじゃん、入口の真上の、普通そんなところに立つ？ってところ。
どうもこんにちは、今フーゴに連れられてそこに立ってます。
フーゴの左隣に立ち、着崩れたコートと跳ねた髪を軽く整える。そして、最早見慣れた下の景色を眺めた。
そこには、普段は見ることのない異質な生命体が２つ。色素の薄い茶色の小さな塊と、黒いフサフサした塊。

……いい加減このシリアスを壊す文章をやめろって話だ。
フーゴには悪いが、未だに私は「Mr.ボマー」を引きずっている。ノエルとカロンからしても、自分で自分のことを「Mr.ボマー」とか言っちゃう高笑いが好きな戦闘狂との戦いって、後から思い返せば笑い話になるくらいギャグくさい出来事だと思うんだよね。
だから私もちょっと真面目になれない。

とはいいつつも、この戦いは私たちにとってもまさに明暗を分ける戦いになるのだ。
先ほど「後から思い返せば笑い話に」なんて言ったが、ノエルとカロンに笑い話が出来るような未来はやってこない。そんな覚悟で挑まないと。

１つ深呼吸を挟んで、もう一度下を見下ろす。
そこに立っているのは、両腕を失った義足のお人形のような少女と、鳥のような頭部を持つ黒い大悪魔。
今回の、私たちの、敵。

「注意しろよ、何が起こるかわからん。ここはもう敵のエリア、完全な無法地帯だ」

カロンがノエルにそう勧告しているのを聞き、フーゴが私に目配せをする。
それは、私だけが理解できる、二人の絆を象徴するような合図。それを受けた私は、右手に持っていた黒いゴツゴツとした塊を、二人がいる方向に向けて投げつけた。

＿＿バン。

「きゃあっ！」

「そう、ここは俺のテリトリー。何が起きるかわからないぜ？」
『無法地帯、なんて言葉で片付くほどここは甘い場所じゃないわよ。……なめないでね』

フーゴの拗らせた台詞に、私も続く。
廃製鉄所の入り口に、ガスマスクをつけた男女。これ、結構絵になってると思うんだよね。

「……おでましだな」
「あ、あいつですわ！ あいつが路地で手紙を……！ そして、あの女性は……そうですわ、たしか市長官邸で……！」

悠々とした態度で構えるカロンとは反対に、ノエルの方はかなり取り乱している。
急に近くで爆発が起きたら、そりゃあお嬢様ならびっくりしちゃうよね。まあさっき投げたのは持ってる爆弾の中でもトップレベルで威力が弱いやつだから、安心して。

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