切ない笑顔 ページ19
マンション前に着いた車。
A「ありがとう…」
ドアに手を掛けようとしたら、
紫耀「うん…。待って？ちょっとだけそっちに…」
そう言うと、
ドアを開け、
急いで後部座席に乗り込んで来た。
A「…えっ？どうしたの？」
紫耀「足りなかった…だから、もう少しだけ。」
抱き締められた。
A「紫耀…」
紫耀「A…」
体を離し、
至近距離で見つめられる。
スモークが貼られた暗い車内。
それでも分かる程、
瞳が濡れていた。
A「泣かないで…」
頬に手を乗せた。
私から触れたのは、
再会してから初めてだった。
紫耀「ごめん…」
私の手に手を重ねると、
紫耀「ごめん…無理だ…」
また謝ると、
首の後ろに回る手に引き寄せられ、
重なる唇…
何が無理なの？
キスする事？
それとも私に彼氏がいる事？
彼氏がいる私にこういう事をする事？
でも、
私は聞けもしない。
聞く権利もない。
キスを拒む事もしないで、
凛を裏切ってる私が、
そんな事を聞けるわけなんてない…
ゆっくりと、
私の反応を確認するようにキスをする紫耀。
それでも、
段々と深いキスに変わっていく。
A「ンッ、ダメ…」
これ以上は…
紫耀の胸を押して離れた。
紫耀「A、…愛してるよ。」
A「…ごめんなさい」
紫耀「分かってるから。そんな困った顔しないでいいから。もう行っていいよ？じゃないと、また俺の家に連れ戻っちゃいそうだから。笑」
A「うん…」
紫耀「おやすみ。またね。」
無理して笑う笑顔が切なかった…
そんな紫耀へ、
またねと私は返せない。
A「おやすみなさい…」
それだけ言って、
車を降りると、
マンションへ向かって歩く。
振り返らなかった。
また凛に会ったらどうしよう…
そんな思いもあった。
部屋に入り、
鍵を下駄箱の上のトレーに乗せる、
その指に光る指輪が目に入った。
玄関の照明を受け、
キラキラ光るその指輪に、
一気に罪悪感が襲う…
壁に頭を預け、
その場に座り込んだ。
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作者名：ひろみ
| 作成日時：2021年8月7日 1時
