揺れる思い ページ13
呼んでくれたタクシー。
帰ろうとバッグを手にして玄関へ向かっていると、
紫耀「ねぇあのさ、何もしないって約束しても、やっぱり帰る？」
小さな声で、
そんな事を言い出した。
A「うん。帰るわ。ごめんなさい。」
紫耀「はぁ…。分かった。」
ヒールに足を入れていると、
背中に大きなため息が聞こえた。
振り返り、
A「じゃあ、ね。」
無理して笑顔を作り、
そう言うと、
紫耀「…次はいつ会える？」
寂しそうな顔をしてそう聞かれた。
次…
いつだろう…
紫耀「いや、ごめん。分かってるんだけど、Aの返事を急かすわけじゃないんだよ。ただ、こんな風に見送るって今までなかったから、めっちゃ寂しくて、もう会いたいって、そう思ってたら、声に出してた。ほんと気にしないで？おやすみ！」
最後に無理したような笑顔が切ない…
A「…おやすみなさい。」
でも、だからと言って何も言えずに、
ううん、
なんて言っていいのか分からずに、
そう一言だけ言うと、
背を向けて、
部屋を出た。
タクシーに揺られながら、
窓の外の景色をぼーっと見つめた。
もうこの場所に来ることは最後かもしれないと、
数時間前はそう思ってたのに、
結局別れることが出来なかったな。
またこの道来るんだろうな…
そんな事を思いながらも、
別れることなんて出来ないと思う自分もいた。
どうしたらいいの…？
今日、紫耀に会いに行って、
自分の気持ちに、
はっきりと気付いたの。
別れることを決めていたのに、
いざ紫耀に会うと、
そんな決心が揺れてしまった…
好き過ぎて離れたい。
そんな私の考えが、
簡単に打ち砕かれて、
馬鹿らしいとさえ、
思えるほどだった…
ママから私達の別れを反対された事。
紫耀からは絶対に別れないと言われた事。
なんだか自分だけが意地になってたの？
そんな気にさえなる。
実際、
久しぶりのキスに心が震えたし、
沢山の愛の言葉をもらって、嬉しかった。
別れるつもりで会いに行ったのに、
結局大好きだと思い知っただけだったな…
タクシーは、
大都会の真ん中を走っている。
相変わらず車が多い東京のお陰で、
冷静に考える時間が持てた。
別れることは間違ってるの？
それなら、
…別れなくてもいいの？
そんな思いに変わってきていた。
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作者名：ひろみ
| 作成日時：2021年4月22日 17時
