紫耀 side 虜 ページ36
仕事が終わり、はやる気持ちを抑えて、シャワーを浴び、カードキーを手に、Aの部屋に向かった。
驚いた顔を想像しながら、玄関を開けるが人の気配が無い…
リビングへ入ってみても居ない…
ソファーに座り、待ってみる。
しかし、いくら待っても帰ってこない…
どこ行ってるんだろう…
俺はAの事を何も知らない…
連絡先さえ知らないんだ…
あっ、この毛布。
そっと手に取ってみる。
柔らかくて、暖かそう…
いつもこの毛布に包まれながら、ベランダで夜空を見上げてるんだよな？
俺も真似して、毛布を肩から巻いて、ベランダに出てみた。
綺麗な夜景と綺麗な夜空じゃん。
でも、Aにはそう見えていない…
はぁ、まだ帰ってこない…
ソファーに横になっていると、いつの間にか寝てしまっていた。
目を覚ますと、ベランダにいるA。
嬉しい気持ちの反面、漏れて聞こえてくる電話越しの男の声に苛立った。
食事の約束？ふざけるな…
何を聞いても、何も話してくれない。
彼女でも友人でもない…
求められれば…
そんな風にこの関係をあっさりと言ってしまうAに腹が立った。
違う。
こんな風に、こんな事をする関係になりたい訳じゃないんだよ。
俺は…
俺は、君の心に触れたいんだ。
好きなんだよ。
初めて君の唇を感じた。
もっと、もっと深く感じたくて、止められなくて…。
君の生い立ちは、想像以上だった。
でも、君の闇が少しだけだろうけど知れたんだ。
5年…。
普通の女の子と違うと言う君だけど、普通の女の子には君のようには出来なかったはずだよ。
でも、涙さえ流せないんだね…
だから、やっぱり俺が君を守りたい、笑顔にしたいと思ったんだ。
でも君は、俺には幸せに生きてきた？優しい？そんな女の子が合ってるから、私みたいな女はダメだと言う…
俺を突き放さないで…
違う。君がいいんだ。
もう、君しか見えないんだよ…
キス以上に進み、触れた君の素肌。
なんなんだろうこの感覚は…
柔らかくて、吸い付くような肌。
この身体を全部知ってしまったら、君からはもう抜け出せないんだろうな…
身も心も君の虜になるんだろうな…
朝、カーテンから薄く入る朝日で目が覚めた。
横には、居ないんだな…
何となくそんな気はしてた…
部屋を見回すと、ベッド横の写真立てに目が止まる。
ベッドから出て、手に取る。
ご両親と、今より幼いA。
笑ってる…。
写真の中の彼女は見たこともないような笑顔で笑っていた…
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作者名：ひろみ
| 作成日時：2018年11月18日 22時
