あの人たちの忘れ形見 (ページ8)

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遠い記憶。6 ページ8

さて、話も済んだことだし！と姉が私たちの間に割入る。

岩子「さっきAちゃんが言っていた演劇って今何がやっているかしら？」

A「えーと、『海女房』『善と悪』『黄色いトマト』が今からなら見れるらしいよ。」

義兄「ほぉ、儂は『善と悪』が気になるのう、おまえは何が気になる？」

岩子「そうね、私も『善と悪』かしら。あの井上先生が脚本したそうよ。面白そうじゃない？」

A「たしかに、じゃあ『善と悪』を観よう」

井上、、。同じ苗字だった春子さんが思い浮かんだ。

そういえば夫は物書きだと言っていたな。

結論から言うと、劇は大変素晴らしい出来だった。

内容は、
佐々木という物書きとその妻の玉子の話であった。

佐々木には愛人がおり、それに対して妻は「自分にも優しくしてくれ」という以外何も言わなかった。

妻とは長い付き合いで、離縁しようにも今更他人には思えず妻の玉子には身寄りもないので出来なかった。

しかし佐々木の愛は愛人の襟子に注がれている。

そこで佐々木は妻を殺そうと考え、妻に優しくし旅行先の赤城山で谷へ突き落として殺害するのだ。

人間の醜悪な一面や繊細な精神描写が芸術家の中でも特に高い評価を得ていた。

岩子「面白かったけど、少し怖かったわね」

義兄「儂には、よく分からんかったが、」

A「人間って怖いね」

春子さんもそう思ったのだろうか。