あの人たちの忘れ形見 (ページ13)

今日:13 hit、昨日:10 hit、合計:13,190 hit

遠い記憶。11 ページ13

突然現れた義兄。
彼はまだ夜が明けて間もない9時頃私の家の戸にけたたましい音を響かせた。

気配で誰かは察したが、あまりにうるさいので最速で戸口へ向かう。

A「(休日だぞこちとら巫山戯んな。)」

姉の気配がないから、喧嘩でもしたのか。

戸を開けて顔を出すと一瞬ホッとした様な顔をした。

そんな顔をしたかと思えば、
どうしたの、と聞くまでもなく直ぐにひどい顔付きに戻る
彼らしくない表情に嫌な予感がした。

義兄「ここに、岩子は来ておらんか。」

A「来てないけど。」

この男も同じ幽霊族であるなら気配で分かるだろう。
だが、わざわざ確認してきた。何故。喧嘩？いや、彼の表情はそんなものでは無い。

彼は、寝ていないのか血走った目に隈をつけて、下駄で走ったからであろう、足は少し皮膚が破けて血が滲んでいた。煤やら泥やらを身にまとって綺麗なのは腕に着けている金色の組紐だけだ。

A「何があった。」

何かあったことは明白であった。

義兄「妻が、妻が帰ってこないのじゃ、、。」

義兄「昨日の朝、元気に仕事に出掛けたきり帰ってこぬ！！！会社にも電話した。そうしたら、妻は、妻は昨日から出勤していないと！！！！っっ、、、つ、妻は、昨日からゆ、行方不明、じゃ。儂は、儂は、、！お主の約束を守れなんだ。」

A「」

ーh

静かな空間に、空気が漏れたような音が小さく鳴った。

私の喉からだ。

あまりの突然の事だ。

理解が追いつかなかった。

行方不明？

姉が？は？は？？

目の前の大男が涙を流しながら縮こまっている。

これは、冗談だ。でなければ夢。夢だ。
そうに違いない。そうに違いない。

でなければ、でなければ私はどうすればいい。
姉さん。嘘だ。嫌だ。
悪い夢だ。
駄目だ、なんで、

この男は何をしていた。
どの面下げて、姉さんが居ないだのほざいている。

落ち着け、冷静になれ。まず、順序を、おって、
義兄から事情を聞こう。

ー
ーー
ーーー

事情を聞いても、とくにわかることは無かった。
ただ姉さんが消えたということしか。

死んではいない。姉妹だからわかる。

そう伝えると義兄はいくらか顔色を良くした。

先程は憎たらしい、掴みかかりたい気持ちでいたが、そんな表情を見て彼もだいぶ憔悴しているとわかった。

生きている。姉さんは行方不明だが死んではいない。

探しに行こう。必ず、見つけ出してみせる。