血

8 ページ8

.









態とらしい咳払いが聞こえてからハッとする。

我に返って直ぐに手を退けた。



悲しい顔をしたテヒョンに騙されそうになる。

この人はあのテヒョンじゃない、人を食って生きてく…吸血鬼なんだ。少なくとも普通の人間ではない。

自分に言い聞かせて、これ以上心が揺るがない様に再度前を向いた。



「ねえ、此処に連れてこられた理由、分かってるでしょ？」
『…私を食べるから、じゃないの？』



目は合わせず、もはや敬語も使わないで答えると、
食べる？と間抜けな声を出したジョングク。


どうせ食べるなら、正直にそう言えばいいのに。
逃げたりしないし。
…食べるのだったら。




「食べるんじゃなくって、Aちゃんの血を提供してもらいたいだけなんだ、俺達」
『提供…？輸血するの？』
「うーん、注射じゃなくて歯でだけど！」




無理、無理だ。絶対に無理。
そんなの死ぬよりも苦しいに決まってる。


だって、昨日みたいに噛まれるんでしょう？
あれは本当に痛くてお風呂に入る時は苦痛でしかなかった。

跡は未だに消える面影もない。
まあ、普通1日で治ったりしないだろうけど…




「ヒョン、説得お願いしますよ」
「任せてジョングギ！」


テヒョンに笑いかけると、静かにドアを閉めて出て行った。

途端にシーンとなる室内。
気不味さしかない。


お互い黙って数十秒、私には何時間にも感じたけど、やっと彼が口を開いた。



「でさ、さっきの続きだけど、怪我した時とかちょっと傷口舐めさせてくれるくらいでいいからさ！ね？お願い〜っ」


肩を掴んで思いっきり彼の方へ向かされて、嫌でも視線が絡まる。

女の私でも可愛いと思うような表情でおねだりする彼に妬みと苛立ちと少しの愛らしさを覚えた。



けど、ここで了承したらダメな気がする。
そう直感的に感じたんだ。


イエスと答えたら、終わりだと、脳が騒いでる。









.

9→←7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す