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「詳しく言って」
おそ松さんはくるりと後ろを向いて机にもたれた。
喋れということだろう。
「…私は、引き取られた後にお義母さんとお義父さんに定期的に様々な薬を投与されました。私は死にかけては生かされ、その繰り返しでした。いつしか薬の効果を確認できなくなり、出来損ないとされました。だから、その後は外部の実験に変わりました。それがこの傷痕です。他にさせられたのは、潜入調査などです。当時は悪い事だとわかってなかったので…なすがままにやってました」
おそ松さんは黙ったまま煙草の吸殻を机に押し付けた。
何かを企むような笑みを浮かべる。
そして机から離れ、私にゆっくり近づく。
おそ松さんは私の目の前に来て
銃を私に向けた。
「れいでしょ。大統領の会議記録USBメモリ盗んだの」
おそ松さんは何故かニコニコと笑っている。
「国の?」
「そう。俺らさ、国から依頼されてれいの偽もんの親殺したわけ。でもトド松曰く、ろくに避けられない様なやつがほんとに盗んだのかって…そしたら、まさかの娘のれいがやってたなんてな。お前そこら辺のやつより優秀だろ」
「そんな…ことないです。学校ではいつも…」
「そんなの、嘘に決まってんじゃん。バカは金を積めばどうにかなるって思考だからな」
「でも!そんなことする必要、ないじゃないですか!」
私は大声でおそ松さんに言ってしまった。
喉が痛い。殺されるかもしれない。
けれど、両親がそんなことしてまで私にお金を使うわけがないんだ。
きっと何かの間違いだ。
そう思いながらおそ松さんの方を見る。
「…そんなこと、する必要あるに決まってるじゃん。親より優秀な子を、愛でる親と隠したい親がいる。れいは隠されていたんだ。実力を。大体、症状から冷静に判断して治療出来るやつが優秀じゃなかったら、優秀人間なんて存在しないだろ」
私は、絶望した。
そこまでして出来損ないと言われてきて
今更、優秀にはなれない。
「…おそ松さん…」
「ん?」
「わ…私を…殺して…」
目元が熱くなる。
もうどうすればいいかわからないのだ。
なんだろうか。この虚無感。
私は、できないことで安心していたのかもしれない。
だって、できないやつは無理に何かをしなくていいから。
出来損ないでありたかったのかもしれない。
いや、大丈夫だ。私はまだ出来損ないだ。
完璧じゃないから。
大丈夫。
おそ松さんは何故か銃をカランと落として
私を抱きしめた。
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作者名:翡翠葛@優杏 | 作成日時:2020年4月27日 9時