My Funny Valentine

The two grown up　きみとしんご2 ページ22

3月の道路はあちこちで工事渋滞。
早めに出てきたはずなのにギリギリになってまった。
タクシーの運ちゃんにお礼言うて
ちょっと手前で降りて急ぎ足。

意外とバレへんもんやけど癖で道の端っこ歩いてる。
時間ぴったり。
きみは朝出ていった時の服に黒ぶちの眼鏡で
もう待っててくれてた。

｢すまん、待ったか？｣
｢んー。今来たとこや｣
｢どこ連れて行ってくれるん？｣
｢まだ秘密。行こか｣

一瞬だけ俺の腰に手ぇ回して耳許で

｢よぉ似合うとる｣

なんて囁くからぎゅうっと体温が一気にあがる。
今日は照れ屋のきみが、やたらと余裕で
なんだか悔しい。

並んで街を歩くなんてそれこそロケくらいやし
プライベートではほとんどないから
ふたりで歩くのは新鮮。
ときめくってこないなことを言うもんかな、なんて
俺の中の乙女が顔を覗かせる。

｢ここやで｣
きみが入っていったのは
敷居の高そうな・・・値段も高そうなお寿司屋さんで。
個室にひとり職人さんが付いて握ってくれるんやて。

｢前にロケで来たときにお世話になって
そん時に予約しといたん｣
めっちゃ美味くてな、信五にも食べさせたくてって
顔を赤らめてる。

俺はというと何やら粗相したらアカンような気がして
店に入った時から緊張しっぱなし。

｢個室ですし、リラックスしてくださいね｣

柔らかい笑顔で言ってくれた大将のお薦めは
どれもこれも美味しくて
あれもこれもと食べ過ぎてしまう。

｢ホンマ美味いわぁ。ありがとな、きみ｣
｢ここならゆっくり食べられると思うてな｣
｢たまにはアンタとサシもええなぁ｣
｢最近アイツらといるの多かったしな｣

子育て一段落させた中年夫婦みたいやなって
カウンターの下でそっと手ぇ握って笑った。

ひとごこちついたら大将も

｢お声かけてくださいね｣

ってひいていった。

｢ええ店やな｣
｢気に入った？また来よな｣

これと言って話もせずに酒を酌み交わせるのも、
きみとだからやなって改めて思う。

ええなぁ、こういう時間。

少し酔ったふりしてきみに体預けた。
繋いだ手ぇはそのまま。

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