検索窓
今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:145,551 hit

ワンクール ゆう ページ43

移動中の車の中から
ぼんやりと景色を見てた。

雨降り、か。
ちょっとずつ春に近づいていく。
信号待ちの俺を乗せた車の前を
相合い傘のカップルが歩いてく。

あ。
思わず声が出た。

髪型も変わって、ちょっとふっくらしたけどあの頃と変わらん笑顔で
連れの男の人に話しかけてる。

ある仕事のスタッフやった。
俺のピンでの仕事やったから、メンバーは知らない話。

きっかけは忘れた。
なんとなく雑談の中で気があって連絡先を渡したんだと思う。

『ふたりで飲み行かへん?』
『いいですよ』

そんな軽いやり取り。
飲みに行ってその日に寝た。
人懐っこそうな笑い顔するくせに
どっか淋しそうで儚げで
スイッチが入ると滅茶苦茶イヤラシイ顔になる。
アホかって自分でも思うくらいハマってた。
勝手に俺のもんやと思ってた。
なんも言わんかったくせに。
なんも聞かなかったくせに。

こんな雨の日。
驚かせようと思って連絡もせずに
最寄り駅に車停めて彼女の帰りを待った。
何本か電車が来て見送って。
駅の階段から下りてきたどこにでもいる普通のカップル。
手ぇ繋いで笑いあって。
デパ地下かなんかの袋提げてる。

あぁ、男いたんや。

車出せばええのに動けんかった。
横を通って行ったとき目が合った。
ほんの一瞬驚いた顔して目を伏せて
すぐに連れのほうを見てまた笑ってた。
ひとつの傘に入って歩く後ろ姿見えなくなるまで
その場から動けなかった。

動けなかったのは俺だけ。
たぶん泣いたのも俺だけ。

次に仕事場で会った時、
何事もなかったかのように俺に笑いかけてきた。
何事も。全部なかったかのように。
あんなに抱き合ったことが夢だったみたいに。

たかがワンクールの夢。

そのまま現場は終わって、会うこともなくなった。
一度だけメールがきた。
読まずに消した。
あの現場が終わってすぐに結婚して仕事も辞めたって
人伝に聞いた。

「彼女、横山さん推しのeighterだったんですよ。
最後に一緒に仕事できて良かったって言ってました」

なんや、それ。
アホらし。
すぐに忘れたふりした。


「きみ、どした?」
横に座ってる信五が心配そうに顔を覗きこむ。

「知ってる人がおった」
「ん?誰?」
「昔の知り合い」
「ほぉん」

それ以上はなんも聞いてこんかった。

信号が変わって車は静かに走り出す。
そっと信五の手ぇを握った。
ふふって微笑んだ信五がカーステレオに合わせてくちづさんでる。

イカナイデ、イカナイデ・・・

雨の歌。

守るべきもの きみたか→←お祝い しんご



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (93 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
239人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

cayochi(プロフ) - ウメちゃんさん» ありがとうございます。楽しみにしてくださる方がいるなんて、本当に幸せです! (2019年3月28日 23時) (レス) id: e43f968c2a (このIDを非表示/違反報告)
ウメちゃん(プロフ) - ぜひ、まだまだ続けてください!楽しみで仕方がないので(*´∇`*) (2019年3月27日 17時) (レス) id: 222b67b008 (このIDを非表示/違反報告)
cayochi(プロフ) - じゅんじゅさん» コメントありがとうございます。私昔からあの曲大好きだったので、どうしてもどこかでお話に使いたくなりまして。番組でしみじみ聞いていた横山さんに昔の恋を思い出してモもらいました(笑) (2019年3月12日 1時) (レス) id: e43f968c2a (このIDを非表示/違反報告)
じゅんじゅ(プロフ) - はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいています。大江千里さんのRainですね。あの曲を思い出しながらもう一度読ませていただきました。 (2019年3月11日 2時) (レス) id: fea29e1eac (このIDを非表示/違反報告)
cayochi(プロフ) - (名前)ゆーきゃんさん» ふふふ。私も気になります(笑)雛ちゃん、本当に誉めて伸ばすのが上手!みんな雛ちゃんから誉められるとめっちゃ嬉しそうですし。ついつい余計なこと言っちゃいますよねぇ。雛ちゃん見習わなきゃ!ですね。 (2019年2月25日 15時) (レス) id: e43f968c2a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:cayochi | 作成日時:2018年12月31日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。