Kissとhug 2

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「それが点滴ぶっちぎっても行かなきゃならなかった用事？」

「明日からツアーで地方に出るんだ…
俺のメシ、食ってから行きたいって言ってくれてたから…」

「…それだけ？なんで倒れたって言えねぇの？」

「心配かけたくない…俺のために煩わせたくないんだ。ね、お願い」



…針を刺していないほうの腕で
目許を隠してるけど、泣いてるのがわかる。



「そんなに大事な約束？」

「大事…だよ」



こんなの…

ただの憧れだけだったらこんなに痛々しい姿になんねぇよな…



「わかった。連絡しとく。
上手く言っといてやるから、安心しろ」

「見送れなくてごめんなさいって…」



薬が効いてきたのか、
だいぶ声も呼吸も落ちついてきた。
顔を隠していた腕が外れて、
とろん、とした赤い目で俺を見てる。



「必ず伝える。だから、泣いてないで目ぇ瞑れ」

「ありがと…しょーた」

「いいから、寝ろ」



頭を撫でてやると、
荒かった呼吸が静かな寝息に変わった。
顔を隠していた腕を掛け布団の中に仕舞うと
起こさないようにそっと病室を出た。


胸が痛いのを誤魔化すように早足で歩く。






病院の外に出てからすぐに
1番ノリのいいマネージャーさんに電話した。
堅苦しいことはあんまり言わない若い人。


いろいろと察してくれるし
たぶんこの人なら、気づいてる。



「あー、渡辺ですけど。お疲れ様です」

「お疲れ。ダテの様子は？大丈夫なの」

「今、点滴してます。
明日には退院できると思うけど、ちょっと休めって」

「あぁ。ダテのこともあるし、ちょっと詰めすぎたって話になってさ。
明日の稽古、なくなったんだわ。
スケジュール、後でちゃんと連絡いくと思うけど。

で？それだけじゃないだろ」

「…はい。アイツ、今先輩と…」

「俺からは言えない。一応、プライベートのことだからね。
ただ、ダテのことは本人よりもナベのほうがわかってるんじゃない？」

「そっか…先輩のスケジュールとかわかりますか？
直接会って話がしたくて。
涼太から伝言、頼まれてるんです」

「事務所で見かけた気がするけど…調べてメールするよ」

「すみません、お願いします」



電話を切って裏の喫煙所のベンチに座る。
これも勝手知ったるってやつだ。
あんまり吸わないようにしてたけど
今は、なんとなく。


ポケットから出して火を点ける。
暗い建物の影に1本、白い煙が揺れてる。

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