Kissとhug 2

カステラ ページ17

有名な双子の野ねずみが出てくる絵本は
大人になってから読みました。
双子が赤と青のお洋服を着てるのに
今更気づいて笑ってしまいました。


**********





「何にも残ってないんだ…」


翔太が残念そうな声を出す。
急に散歩に行きたいなんて言い出して
着いてきてみたら
随分懐かしい場所に連れて来られた。


「取り壊しになったの、もう随分前だからね」


そこには古びた造りの図書館があって
俺たちは小さい頃、ここでよく待ち合わせをした。


児童書が沢山置いてあったし
本を読むスペースも広めにとってあった。
特に気に入ってたのは２階の窓際の席で
司書さんからも見えにくいそこは
俺たちの特別な場所だった。


元々あまり人のこない図書館だったけど
一応声を顰めて
別々になってしまった学校の話や
好きなアニメの話をした。
大体が俺が一方的に話して翔太が聞き役だった。
ふたりでこっそり秘密の話を沢山した。


古い建物を取り壊して
近くに新しい図書館ができる、と聞いたのは
俺がオーディションを受ける少し前のこと。
小学生の間は習い事の関係で
連絡が途切れることはなかったけど、
中学生になるとお互い色々忙しくなって
頻繁には会わなくなって来た頃だった。


図書館としての役目を終えた後、
そこはしばらくの間、中を見学できるようになってた。
建物自体、珍しい造りだったし
小さな庭には見事な薔薇が咲いてたから
名残を惜しむ声があがったらしい。


俺も取り壊しまでの間、1度だけ行ってみた。


本も机もなくなったガランとした洋館。
入口に管理人さんがいるだけで、
他に誰もいなかった。


いつものように２階へ行っても
翔太と並んで座った特等席は影も形もない。
ぽつん、とひとつ椅子が取り残されていたから
窓際に持ってきて暫く外の景色を眺めてた。


庭でピンクの薔薇が咲いてる。
その奥には黄色い小ぶりの薔薇。


翔太と一緒にいた時は花なんてちゃんと見てなかった。
いつだってお喋りに夢中だったから。
翔太の顔ばっかり見てたな、な思って
鼻の奥がツン、とした。


柔らかに吹く風。
翔太のクスクス笑う声みたい。


もうあんまり会えないのかな、なんて思ったら
急に寂しくなって慌てて家に帰った。

2→←9

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す