恋 彼らのお話3

少しだけ　しんご1 ページ31

｢今日もおらんのか・・・｣

仕事終わり急いで帰ってきてもきみは今日もおらんかった。
怒濤の週末ライブも残すは東京だけ。
その前もきみは舞台や個人の仕事があったから
バタバタと忙しい日々。
偉大な人を亡くしたこともあって
心身共に疲労感MAX。
いくらタフな俺でもちょっとキツい。

俺も過密スケジュールやけど
きみはもっと忙しいんちゃうか？
一緒に住んでるって言うのに
顔合わせんのは出掛ける前のほんの数分と
グループ全員での仕事の時くらいやなぁ。
眠ってるときは隣におんねんけどな。

ふたりっきりでちゃんと会話したのって
どのくらい前やろぉか。

TVを点けたらちょうど翔くんの番組。
せやった。
後輩くんたちのプロデュースしとるから
一緒に番組出るって言うてたな。
まぁ、生やないから今日は違う仕事やろぉけど。

画面に映るきみの顔見て
チーが隣に寄ってきた。

｢チーもきみに会っとらんやろ｣

話しかけたらこっち振り向いて
にゃ？って不思議そうな顔した。
まぁ、夜中に起きてることもあるやろし
俺よりもチーのほうがタイミング合うかもしれんよなぁ。
そう思ったら胸がチクリと痛んだ。

チーにヤキモチ妬くなんて末期やわ。
そう思ったらなんや急に悲しなってきた。

｢きみぃ｣

得意気に後輩くんたちを紹介してるきみを
呼んでみたけど、もちろん返事なんてない。

こんなに一生懸命なんやから
心の底から応援したいのに。
できひん自分もおる。

｢もう少し俺にも時間つくってぇな｣

声に出してもぉたら涙が出てきた。

アカン。こんな自分イヤや。
グスグスと鼻水すすっとったら
ポケットに入れたまんまのスマホが揺れとる。

たぶん。
こんなときに連絡よこすのは、きみじゃなくて。
電話繋げたら

｢もしもし。信ちゃん｣

当たり前のように甘ったるい声がする。

｢今日たつもおらんからおいで｣

返事もせんうちに。

｢おん。行く｣

ひとこと返して電話を切った。
部屋着に着替えてスマホと鍵だけポッケに入れる。

｢チーも来るか？｣

一応聞いてみたけど
うにゃ、とだけ鳴いて定位置行ってもぉた。
ごゆっくり、ってことやろ。

｢ほんじゃ、行ってくるわ｣

サンダル突っ掛けて玄関閉める。

たぶん帰って来たら俺は笑っとるんやろぉなぁ。
ある意味俺の片割れ。
妙に察しのええアイツ。
こんな時は甘えるに限る。

まぁ、本人には絶対言わんけど。

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