HONEY HOLiC

Darling 34 ページ34

｢………遅い。｣



ぽつり呟いたあたしの声がひとりぼっちの部屋に響く



今日は勉強会の日だから、ジヨンの帰りは遅いんだけど


どれだけ待っても玄関の扉が開く気配はなくて




部屋はぴかぴかに掃除した


胃袋を掴むほどの腕前はないけれど、手の込んだご飯も作った




あたしに問題があるのなら、ひとつひとつ解消しなきゃって



それもぜんぶジヨンがいてくれないと意味がないじゃんか




送ったメールには既読は付くもののジヨンからの返事はなくて


悲しい気持ちに焦りが加わる





『Aちゃんどうしたの？』


耳に当てたスマホからはワンコールで出たすんちゃんの声がした


もう嫌な予感しかないんだけど





｢あのさ、ジヨンは？｣

『ひょん？終わったら一目散に帰ったよ？』




胸の奥が掴まれたように苦しくて、ぎゅっと痛い




あたしの顔を見たくないほど嫌いになった？



ちゃんとした回答がもらえないことに、ちょっと笑ったけど



ジヨンがいない今が、答えだってそう感じる







力の抜け落ちた身体をソファの上で縮こませた


暖房は効いてるはずなのに、気持ちが沈んでたら寒さを感じて



窓の外は真っ暗な空から真っ白な雪が降ってた









｢ジヨン、ほら見て雪が降ってる！｣

｢雪なんか珍しくねぇだろ。｣




去年の今頃



ふわり舞い散る雪をジヨンと一緒に眺めることが楽しくて幸せで



いつもの景色はジヨンの隣にいれば特別なものになって



｢ったく、お前はほんっとガキだな。｣



わぁーっとはしゃぐあたしを捕まえて


冷たくなって赤くなったあたしの顔をジヨンの手が包んであっためてくれた


笑いながら、ばかだなって言うジヨンは優しくて





「…っ、」




ぽとんと手の甲にあったかい涙の雫が落ちた



ジヨンもどこかで同じように雪を見てるかな



そんなことを願うことしか出来ないのかな



大好きな人とずっと一緒にいられることは、どれほど特別なんだろう






スマホを握りしめたまま、倒れこんだソファで眠り込んだことに気づいたのは




｢こんなとこで寝たら風邪引くだろうが。」




ゆっくり広がった視界にジヨンの顔が見えた時だった




……帰って、きたの？



声がうまく出せなくって



あたしの髪をさらっと撫でたジヨンが



”ただいま”って言ったあと





｢なに泣いてんだよ？｣




驚いたように目を見開いて



ほっぺたを手のひらで包み、涙を拭ってくれるジヨンを



黙って見つめ返した

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