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vol. once more 23 ページ45

｢んっ、たぷ……｣

濡れた声は鼓膜から脳に行き渡り、細胞を刺激する

キスしたまま抱き上げて

そっとベッドに寝かせたら一瞬困ったように、視線が泳いだ

余計なものは何もない、Aの香りで溢れる寝室

頬から首筋にかけて、唇を這わせてみれば

身を捩りながら目を固く閉じて

手だけで俺を探す細く華奢な指が、すうっと迷いなく俺の髪を掻き上げてくる

｢A。｣

促すように、名前を呼んでやれば

伏せたまつ毛が揺れて

その仕草にぞくりと本能が騒いだ

熱を持った瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる

これ以上、俺を煽るなよ

昔も、これからも

俺はAのその顔に弱い

鼓動を落ち着かせるように、ゆっくり呼吸を整えた

｢…ずるい。｣

｢は？｣

｢あたしは…余裕なんか全然ないのに。たぷは…いつだって、余裕で、｣

｢余裕なんか、とっくにねぇよ。｣

こっちは泣きそうに漏らす、甘い声に今にも溺れそうになってるっていうのに

“理想のタイプ？落ち着いた雰囲気の大人の人かな？”

Aを気になり出してからすぐそんな事を言ってるのを耳にした

それからずっとだ

Aが理想とする、大人の男になりたいと

俺がひたむきに頑張ってたなんて…お前は知らないだろ？

思わず出た苦笑いに、Aが首をきょとんと傾げる

わざと距離をとっても
わざと視界に入れなくても

どこにいても何をしていても
気が狂いそうなほどいつも思ってた

Aのことばかりを

もう泣かせない

そんなかっこいい約束は出来ない

一番ガキくさくて、みっともないのは俺だって

ぐしゃぐしゃに泣くのも

無邪気な笑顔も

憂いを帯びた目で見つめるのも

全部、俺だけでいい

だから、ずっと怖かった頭ん中

本当は恋に臆病者だった俺も

全部、Aに捧げるから

お前も、なんも怖がらずに

もう一度……俺を丸ごと受け入れてくれ

少しだけ笑ったA

その先を抱きしめるように、唇を塞いだ

ねだるように何度も合わせるキスは

どこに向かってんだろう、がむしゃらだ

Aの体温が覆いかぶさってくる心地良さはこんなにも愛おしい

｢たぷ……ずっと愛してる。｣

伝えたい言葉は俺が口を開く前に、Aの言葉に包まれて

身体が震えるほどの何かが、胸の中にわーっと広がって

｢たぷ。｣

何度も何度も名前を呼んで

背中にしがみついたその腕の中は

ただただ幸せだった