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vol. once more 20 ページ42

たぷは、何もわかっていない

“1度しか言わないから、ちゃんと聞け”

充分すぎる前振り

あたしの期待は最高潮に達してたのに

ぼそっと耳元で聞こえた低くて掠れた声は判断のしようもなくて

もう1回言ってよ！って泣いてこっちは醜態晒してんのに

たぷは首を横に振った……

たぷのばか

こんな時にまで、意固地で頑なにならなくてもいいじゃん

1歩なんか、踏み出せるわけがないよ

あたしとたぷの間にもどかしさが降り積もって

ただただ胸の奥が苦しくて

手の施しようがない8年のブランクはあまりにも長すぎるらしい

｢A。｣

｢やだ。気安く呼ばないで。｣

心臓はものすごくドキドキしてるのに

素直になれない

｢……ヌナ？｣

｢ヌナって呼ばないでよ！｣

どれだけわがままになったら気が済むんだろう

たぷがいれば

……それだけでよかった

そう望んでたのは確かにあたしなんだけど

今の気持ちだけで勢いで飛び込んでみて

やっぱりダメだったって

同じことを繰り返し

傷を負うのが……怖い

欲張りで臆病なあたしの心はどうやら欲求不満

今度は、確証がほしくなる

もう絶対泣くもんかって

頬の筋肉にぎゅっと力を入れたら

｢……その顔、｣

はじめは口元を手で隠してくくくって肩を揺らしたたぷが

ぶはっと声を上げて、更にはお腹かかえ

挙句の果てには、涙流して笑うたぷ

思い切り睨みつけて、不貞腐れてみたけれど

本当はたぷが笑ってくれて嬉しかった……

笑いながら、頭をぐしゃぐしゃされたことも

嬉しくて、嬉しくて仕方ないの

｢もう1回……言って。｣

だから、お願い

｢大したことじゃない。｣

｢あたしは聞きたい。｣

ちゃんとあたしの目を見て

不安定な心はぐらぐら傾きそうなの

ふわっとした前髪の隙間から覗き込む瞳は

ゆっくりと、丁寧に時間をかけてあたしを見つめる

たぷにぎゅっと絡め取られた指先と

優しい温度と一緒に

意気地無しなあたしの心ごと、簡単に溶かしてしまいそうな気さえした

｢好きだ……って言った。｣

寄り添うように伝って

ゆっくりと鼓膜へと落ちていく

｢笑うか泣くか。……どっちかにしろ。｣

呆れたように、ちっさくたぷが笑うと

ぶわーっと今までのたぷへの気持ちがこみ上げて

今度は幸せで胸が痛くなった