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vol. once more 14 ページ36

“これは夢”

3回唱えて、瞑っていた目を開けると

｢どうした？｣

不思議そうに覗き込むたぷと目が合って

｢立ったまま寝てるのかと思った。｣

まだじーっとあたしを見つめる大きな黒目

だって……だってだって！

こんなの夢でしかあり得ない！！

子供の頃に連れて来てもらってた遊園地

大人になったら

大好きな人と来たいってずっと思った

それがたぷだったらって……

未だに夢と現実の境い目に立たされるみたいで

戸惑うあたしを他所にたぷは

｢何乗る？｣

｢……ジェットコースター。｣

少し前を開けて、答えると

｢言うと思った。｣

ぶはっと笑ったたぷがあたしの手を引いて歩き出す

久しぶりに触れ合う手と手の感触に

漠然とした疑問がひとつ、落ちた

どうして？

なんで？

振り返ったたぷがまた笑うから

お腹の底から心が震えて、あたしは泣きたくなるんだよ

｢たぷ。ジェットコースターだめだったの？｣

｢……別にだめじゃない。｣

こめかみを手で押さえながら目が回っただけだ。って強がるけど

それって全然だめじゃん！

はぁっと地面にため息ついて、ベンチに凭れかかった大きな背中

こんな風に弱々しいたぷは、ちょっとかわいい

思わずくすりと笑ったあたしに、たぷがすかさず

｢笑ってんな。｣

むすっとわかりやすく不機嫌な顔

｢アイスでも食べない？｣

｢このクソ寒いのに？｣

｢じゃあ、あたしひとりで食べる。｣

｢嘘。一緒に食おう。｣

まるで小さな子供をあやす様にたぷがあたしの頭を撫でた

やだ

そんな嬉しそうな顔しないで

そんな風に笑いかけないで

あたしの好きな

いつもの笑い方

あの頃のふたりが戻ってきたって

勘違いしちゃうでしょ？

ふわりと頬を撫でる風が来た時より冷たくなってきて

幻想的なイルミネーション

寒いけどもう少したぷの横顔を見ていたくて

｢来れて……良かったな。｣

栗色に光る髪の毛は、どこか綺麗で儚げで

思わず見惚れてしまうほど

ずっと諦めていた願いが……叶ったの？

ううん

違う……そうじゃない

あたしが本当に望んでたのは

｢……あれ乗ろう。｣

しばらく続いた沈黙を破るようにたぷが口を開く

嫌な、とても嫌な予感がした

やだ、って

首を横に一生懸命振れば、手をぎゅっと握って

｢A。……俺はあれが乗りたい。｣

ねぇ……そんな声で呼ばないで

あたしはまだ夢から醒めたくないよ