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vol. once more 13 ページ35

あたしの思考は停止状態

たぷが立っているのは、間違いなく見慣れた玄関

｢……何しに来たの？｣

｢寒い。｣

｢ねぇ？ちょっと……、｣

震えるように絞り出した声に

眉ひとつ動かさないたぷ

半年前、また彼らの担当になってから

今までさんざんお互いが避けてきた

“おはよう”“お疲れさま”

交わされるのは当たり障りのない挨拶のみで

目が合って

笑い合うこともなくて

仕事仲間としての違和感のない、ベストな距離

境界線を越えないように務めてきたはずだったのに

ちらりと腕時計に目を向けたたぷ

｢10分。｣

｢はい？｣

｢10分で用意して。｣

｢わけわかんないんだけど！｣

それ以上はなんにも言わないたぷがじーっとあたしを見た

そんな目で見つめられたら

胸が苦しくなるから、やめてほしい

その視線に急かされるように待ってて。っと返事するしかなくて

パタパタと逃げるように向かった洗面室

鏡に映るあたしは寝起きだとしても

空いた口が塞がらないほどの、ひどい有り様で

ぎゅっと頬を抓ようとした指をぴたっと止めた

これは夢なのか現実なのか……答えを探すことが出来なくて

心臓がこんなにもドキドキ動いたことがない

夢でしかないよね？

有り得ないって言い聞かせるけど、落ち着かない鼓動は勢いを増すばかり

メイクを急いで整えて

バッグにケータイを放り込むと同時に着信音が響く

｢待って。ジヨンから、｣

｢今は出なくていい。｣

あたしの手からするりと奪ったケータイの電源をたぷが切って

少し触れたたぷの指先

｢下に車待たせてるから。｣

そう言ったたぷの背中を追いかけた

ふたりを乗せて

行き先も告げてないのに、走り出すタクシー

ルームミラーに映るのは

大人になったあたし達…………

高く登り始めたお日様の柔らかい光の束が

窓の外の流れる景色を眺めるたぷの横顔を照らしてた

やっぱり現実味なんか、これっぽっちもない

手を伸ばせば、すぐそこにたぷがいる

なんでか

触れるのが怖くて

｢着いた。｣

その声に顔を上げると

目が合ったたぷが

あたしに向かって…………少しだけど笑ってて

これは…………諦めていた

…………夢の続きなんだろうか？

もしかしたらその時もう

あたしは泣いてたのかもしれない