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vol. once more 8 ページ30

“何もしなくていい”

そういうつもりじゃなかった、と

言い訳はいくらでも用意出来る

ピンポーン

間を伸ばして鳴らせば

玄関のドアがガチャっと開き

｢おい。確認したのか？｣

｢あ、うん。……たぷだなって。｣

無理矢理取り繕ったような

曖昧な笑顔のAは初めてで

｢今日来ると思わなくて……。ビールならあるよ。｣

冷蔵庫から缶ビール二つ取って、わざとらしく明るく振る舞う

Aが、傷ついたことも

俺が、傷つけたことも

俺が知らないふりをすれば

このまま何事もなく、やり過ごす方法はいくらでもある

“ヌナの誕生日もうすぐだから、名誉挽回のチャンスだよ。”

ジヨンに乗せられたわけじゃない

｢A……の誕生日。｣

はっとしたAが俺を見上げた

｢……どこ行きたいか、考えとけよ。｣

出来るだけAには余裕のないところを見せたくなかった

Aはいつも満足以上のことをしてくれる

“特別”なんか望むより

Aが一緒にいて

Aと過ごせたら

それは特別以上のことだった

｢……たぷ。｣

途端に目の色を変えて、ゆらっと動く視線

変わらない……そう思ってたけど

Aが望むのなら

そんな俺になるのも……悪くない

俺からすりゃ、お前はこんなに大事なんだ

｢は？遊園地？｣

｢そー。行きたい！でね、ジェットコースター3回乗って、｣

｢聞いてるだけで目が回る。｣

｢雪が降ってるのを観覧車から眺めたい。｣

｢やだよ。寒いだろ。｣

｢ふわふわ舞う雪が紙吹雪みたいで。神様もお祝いしてるの。｣

｢少女趣味だな。｣

｢あたし意外とロマンティストなんだから。｣

ふふって笑いながらも目を潤ませるA

そんなAの顔を見た途端

冷静な自分なんて一瞬でどっかに飛んでって

その姿が愛おしくてどうしようもなくて

気がつけば、Aを腕の中に閉じ込めていた

｢……苦しい、｣

ちょっと眉間にシワを寄せながらも

俺の髪をゆっくりと撫でるAの指

こういうことされると

Aがやたら大人に見えて

確かにこんなことしてる今の俺は

どうしようもねぇガキに見られてんだろうなって思うけど

Aさえ

俺を理解してくれてるなら、それでいい

今日もこんなにも特別に感じてしまう

｢……たぷ。ずっと好きだよ。｣

取り返しはつかない

苦しくなるくらい、溺れてしまえ