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vol. onec more 1 ページ23

恋とは

人を好きになってしまい

寝ても覚めてもその人が頭から離れず何も手につかなくなり

身悶える心理的状況

あたしは今も、それに当てはまるのか

こっち向けってそう思ってるくせに

寝癖のついた頭がくるりと動けば、ぱっと視線を逸らして

思春期の小娘でもないのに何やってんだろって

｢…はぁ。｣

｢ヌナ。ため息は幸せが逃げてくよ。｣

目が合ったのは鏡越しのジヨン

わざとらしく首を傾けて、どーしたの？って

悪いけど今のあたしはそれに応える心境は持ち合わせてない

｢うっさいわね。メイク中なんだからいい加減ケータイ弄るの止めてよ。｣

｢あっ、もうちょい待って。｣

没収しようと手を伸ばしたけど、躱されて

見られても構わないと思ってるのか

こてこてに生クリームがデコレーションされ、さらに粉砂糖までトッピングしたケーキみたいに

胸焼けしそうな甘ったるいメッセージを打ち込むジヨンは幸せそうで

｢返事きた！｣

【了解〜】

たったそれだけなのに嬉しそうな顔してさ

｢よっぽど好きなんだ。彼女が。｣

｢うん。大好き。やっと出会えた運命の人だから。｣

嫌味を込めたつもりだったのに恥ずかしげもなく言い切ったジヨンに

羨ましいとイラッとするのはワンセット

｢前を向いて。｣

乱暴にぐいっと両手でジヨンの顔を鏡に向けた

｢ヌナに聞きたいんだけど。｣

｢何？｣

｢もうすぐ1年記念なんだ。どこに連れて行ってあげたらいいかな？｣

んー、と考え込むジヨンに

あたしの心がぴたっと止まる

“……どこ行きたいか、考えとけよ。”

ぶっきらぼうだけど、照れくさそうな横顔

ほら、こーやって簡単に思い出す

｢レストラン予約して、プレゼント渡すより旅行のが喜ぶかな？｣

｢そんなサプライズより。普通のデートの方が嬉しいよ。｣

｢例えば？｣

｢……遊園地とか。｣

“は？遊園地？”

“そー。行きたい！でね、ジェットコースター3回乗って”

“聞いてるだけで目が回る。”

“雪が降ってるのを観覧車から眺めたい。”

“やだよ。寒いだろ。”

“ふわふわ舞う雪が紙吹雪みたいで。神様もお祝いしてるの。”

“少女趣味だな。”

“あたし意外とロマンティストなんだから。”

ぶはって笑いながらあたしの頭をぐしゃぐしゃに撫でた大きな手

温もりは心がしっかりと覚えてる

思い出って簡単には捨てられない

それがあたしの一番幸せな記憶なら、なおのこと