2 ページ45
「あれぇ？ アンちゃんじゃん」
「あ」
振り返ると白澤様がいた。彼は襦袢の上に羽織を羽織っていた。朝からいい男である。
少し気まずくて私は会釈したが、彼はそんなことは気にも留めず笑いながら私の隣に立った。
「早いねぇ」
「……悪い夢見ちゃって」
「えー、どんな夢？」
普段ならはぐらかすところだったが、今朝は何故か投げやりになって何でも言ってしまえ、という心境だった。
「ハクが出てくる夢だったんです」
「うんうん」
「ハクが腕を広げておいでっていうから私、行こうとしたんです。そしたら違う女の子がそこに行って、ハクもその子のこと抱き締めて大切そうにしてて、私のことなんか目に入らないって様子だった」
「マジか」
「あれって、未来のハクの姿なんですかね？」
私が死んだ後の、と付け加え私は自嘲的に微笑んだ。白澤様は真顔に戻って少し飛んで行く鴎を見ていたがやがて口を開いて笑った。
「……僕の前じゃあんな啖呵切ってたくせにさ、結局怖いんじゃん」
そう突っ込まれ、思わず私は赤面した。そうだ、白澤様の前でこの前私は散々かっこつけたことを言ってしまったんだった。
「ごめんなさい……」
「いーや？ 照れてるとこも可愛いねぇ」
にこにこと頭を撫でられる。私は思わず頬を膨らませた。
「お世辞いらないですから」
「え？ 今のは本心だけど……」
白澤様が首を傾げ私を見る。『今のは』って。
白澤様は懐から煙草を取り出しながら欄干にもたれかかった。
「まあハクなら、アンちゃんが死んじゃった後も君だけ、って他に好きな人作らないとかしそうだけどねぇ」
私はそれを考えてみて、首を振った。
「そうやって縛り付けちゃうのも、なんか違う気がします」
「でも、嬉しいんでしょ」
「まあ嬉しいですけど」
私がハクと同じ種族だったら話が早いのに。と、私は白澤様が吸っている煙草に目を止めた。見慣れたパッケージ。現世のものだ。
「それ、セッターですか？」
「ん？ あーそうそう。やっぱり現世のヤツが吸いたくなるんだよね、たまに」
神様が現世の煙草を吸ってるその様子が面白くて私はちょっと吹き出した。白い煙を吐き出す横顔のラインが綺麗だった。あまりにも美味しそうに吸うものだから、私は気になって尋ねた。
「美味しいですか？」
白澤様はにやりと笑って私を見た。
「吸ってみる？」
「え」
戸惑って言葉に詰まる。
普段なら一瞬で断るところだったが、今日は何故かむしゃくしゃしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 526人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
季紀(プロフ) - 一葉さん» 3周も読んでくださる方がいるなんて、感無量です（ ; ; ） 感謝の気持ちで一杯です☺︎ ありがとうございます！ (2022年6月19日 20時) (
レス) id: 597a075cd6 (このIDを非表示/違反報告)
一葉(プロフ) - 見てるこっちもキュンキュンして、かれこれ3周目です笑この様な最高の作品を作ってくれてありがとうございます😍 (2022年6月19日 19時) (レス) @page49 id: 85091bc4a0 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - Sakuryaさん» まだ見てくださっている方がいると思わなかったので本当に嬉しいです。中学生の時に書き始めてついに大学生になってしまいましたが、大学は暇なので沢山ネタを考えているのでその都度更新していこうと思っています。笑 応援ありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 雪華さん» 暫く書いていないので文章も拙い中そんな風に言っていただけで嬉しいです。雪華さん何度もコメント欄？でお見かけした覚えがあります。いつもありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
Sakurya(プロフ) - 更新されたと通知があり、ものすッッごく嬉しくて！！今後もこういったかたちでいいので、私生活に支障が出ない程度に頑張ってください！ジブリのハクを好きでいてよかったと思える作品です！！ (2019年6月5日 21時) (レス) id: e0447573e7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kiki
| 作者ホームページ：http://nanos.jp/catsong2/
作成日時：2015年8月17日 23時
