悪夢 ページ44
「こっちにおいで」
ハクが腕を広げ、優しく笑いかける。私は吸い寄せられるように、幸せな気持ちでその特等席に収まろうとした。
が、ハクが抱き寄せたのは知らない女の子だった。伸ばした髪に少しかかった癖毛がふわふわと可愛らしい、若い女の子。
――誰？
心臓が凍り付くような思いがする。
「ハク」
出した声は掠れていて彼に届かない。ハクは私に気付かず、女の子の頭を撫で愛しそうに見つめる。彼女も当然のようにその腕の間に収まっていた。
「愛してるよ」
「もう、ハク、今まで他の子にも沢山そういうこと言ってきたんでしょ？」
ハクは瞳を揺らして微笑んだ。
「まあ、過去にはそういう人もいたけど……今はそなただけ。思い出は忘れてしまったよ」
そういうと女の子はもう、と頬を膨らませてハクを見上げた。彼はその唇に口づける。
私はその様子を何もできず見ていることしかできなかった。体中から血の気がサーッと引いてゆく感触がする。
やめて。その場所は私の特等席なのに。あなたの場所じゃない。
――あなたは誰。ハクは、私だけのものじゃなかったの――？
「はっ」
体がガクンと揺れ、今までの情景が突然消えた。酷い寝汗をかいているのがわかる。そこは周りを見渡すとハクと私の自室だった。
「夢か……」
それにしても嫌な夢だった。胸の奥にまだもやもやとした何かが詰まっている。
隣を見ると綺麗なハクの寝顔があった。厚い睫毛に目は閉じられ、小さく寝息を立てている。私に腕枕をしていた。
私はベッドの上に上半身を起こした。
何でこんな夢を見たんだろう。正直ハクを信頼しているから浮気とかは心配していないのだけれど。
「……いや、違う」
浮気じゃない。あれは、ハクの未来の姿だ。私が死んだ後の。
直感的にそう感じた。きっと私は、私がいなくなった後の未来が怖くて、それであんな夢を見た。
はあ、と溜息を吐き髪をぐしゃぐしゃに掻きむしる。
何弱気になってんだよ。今のハクとの時間を大事にするって心に決めたのに。
しかし今は、あんな夢を見た直後なのでハクの腕に抱かれて再び眠る気にはならなかった。
顔を洗い、廊下へ出た。朝の油屋は人気がなく静かである。吹き抜けの空気が少しひやりとして底冷えした。
私は外に面した廊下を出、欄干にもたれかかった。
橋の向こうの街から、川のあたりやその先の草原までが見渡せる。いい天気になりそうだ。
風が私の髪を宙に舞わせる。私は朝の綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
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季紀(プロフ) - 一葉さん» 3周も読んでくださる方がいるなんて、感無量です（ ; ; ） 感謝の気持ちで一杯です☺︎ ありがとうございます！ (2022年6月19日 20時) (
レス) id: 597a075cd6 (このIDを非表示/違反報告)
一葉(プロフ) - 見てるこっちもキュンキュンして、かれこれ3周目です笑この様な最高の作品を作ってくれてありがとうございます😍 (2022年6月19日 19時) (レス) @page49 id: 85091bc4a0 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - Sakuryaさん» まだ見てくださっている方がいると思わなかったので本当に嬉しいです。中学生の時に書き始めてついに大学生になってしまいましたが、大学は暇なので沢山ネタを考えているのでその都度更新していこうと思っています。笑 応援ありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 雪華さん» 暫く書いていないので文章も拙い中そんな風に言っていただけで嬉しいです。雪華さん何度もコメント欄？でお見かけした覚えがあります。いつもありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
Sakurya(プロフ) - 更新されたと通知があり、ものすッッごく嬉しくて！！今後もこういったかたちでいいので、私生活に支障が出ない程度に頑張ってください！ジブリのハクを好きでいてよかったと思える作品です！！ (2019年6月5日 21時) (レス) id: e0447573e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kiki
| 作者ホームページ：http://nanos.jp/catsong2/
作成日時：2015年8月17日 23時
