和解 ページ37
火鉢がとろとろと部屋を暖めているのが分かる。徐々に広がった視界に、腫れぼったくなった瞼を開いて部屋の中を見渡す。見知らぬ部屋だった。油屋の中のどこにでもある造りで、窓側には文机が一つ置いてあり、私は赤い末広がりの波模様の布団に寝かされていた。窓は障子が半分閉じているが、その向こうに見える空は明るいことから、おそらくまだ昼時なのだろう。
「目が覚めたか？」
ふと、頭のすぐ後ろで声がして、私はびくりと体を飛び上がらせた。振り向けば、あぐらをかき、その膝の上に肘を置き頬杖をついているハクの姿があった。最近ハクは青年から大人の姿へと差し掛かっていて、伸びかけた髪がさらりと揺れる向こうに、精悍さを増した目鼻立ちの通った顔立ちがあり、思わず胸の奥がどきりとした。
彼が少し眠そうだったが、私と目が合うと猫のような瞳と口元を緩ませた。
「半日以上寝ていたぞ」
「半日っ……てことは、今は何時？」
「午後1時くらいかな」
ふと、私がどうやってここまで運ばれてきたのかということが気になった。勢い良く体を起こそうとすると、
「痛ッ」
体中がずきずきと痛んだ。それに、だるくて重い。ハクが慌てて私の背を支えながら布団の中へ戻す。
「まだ動いちゃいけないよ。肺炎こそ免れたものの、低体温症になっていたし、酷い出血だったんだから」
「出血？」
「ああ。足の裏だ」
確かに、右足に鋭い痛みを感じる。布団を捲ってみると、右足にはぐるぐるとさらしが巻かれていた。
「川の中の化け物に嚙まれたんだってね。悪い気が入ってしまっているから、そう簡単には治らないよ」
ハクが冷静に声をかける。でも、悲観していないあたり、そう重大なものでもないんだろう。
それにしても、ハクとこうして一対一で話すのなんていつぶりだろう。彼は、もうあのことについて怒っていないのだろうか。それが分からない以上、沈黙が恐ろしく、言葉を紡がずにはいられなかった。
「……あの、誰が私をここまで運んでくれたの？」
「……白澤様だよ」
僅かな沈黙。
「油屋まで！？」
「そう」
私にはあの川原での事件以降の記憶がない。分からないけれど、きっと白澤様が意識を失った私を運んできてくれたのだろう。……彼も、憔悴しきっていたのに。
「……私、どんな格好してた？」
ハクは、その質問に答えるのに戸惑った。そのことから、きっと、ハクにとっても良いものでもなかったのだろうと察した。
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季紀(プロフ) - 一葉さん» 3周も読んでくださる方がいるなんて、感無量です（ ; ; ） 感謝の気持ちで一杯です☺︎ ありがとうございます！ (2022年6月19日 20時) (
レス) id: 597a075cd6 (このIDを非表示/違反報告)
一葉(プロフ) - 見てるこっちもキュンキュンして、かれこれ3周目です笑この様な最高の作品を作ってくれてありがとうございます😍 (2022年6月19日 19時) (レス) @page49 id: 85091bc4a0 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - Sakuryaさん» まだ見てくださっている方がいると思わなかったので本当に嬉しいです。中学生の時に書き始めてついに大学生になってしまいましたが、大学は暇なので沢山ネタを考えているのでその都度更新していこうと思っています。笑 応援ありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 雪華さん» 暫く書いていないので文章も拙い中そんな風に言っていただけで嬉しいです。雪華さん何度もコメント欄？でお見かけした覚えがあります。いつもありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
Sakurya(プロフ) - 更新されたと通知があり、ものすッッごく嬉しくて！！今後もこういったかたちでいいので、私生活に支障が出ない程度に頑張ってください！ジブリのハクを好きでいてよかったと思える作品です！！ (2019年6月5日 21時) (レス) id: e0447573e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kiki
| 作者ホームページ：http://nanos.jp/catsong2/
作成日時：2015年8月17日 23時
