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体が水上に出てくると、外気の肌を刺すような冷たさと、どっぷりと水を吸った衣服の重さが際立った。ほとんど這うような姿勢で、彼を何とか水のない、草の生えた所まで引きずって横たえる。
白澤様は、相変わらず目を閉じたままで死んだように横たわっていた。彼の人形のように美しく整った顔が、余計生気のなさを際立たせていた。
私は彼の着物の胸を大きくはだけさせ、胸に耳を当てた。何も感じない。
素人だから聴き方が悪いのかと手首を取り脈を診てみるが、いくら経っても脈動を感じることはなかった。――心臓が止まっているのだ。
「白澤様！ 白澤様、起きてください！」
耳元で呼びかけてみるが、彼はぴくりとも反応しなかった。
嘘でしょ、と脳内に絶望的な声が響く。さっと顔から血の気が引いて行った。まさか本当に、死んでしまうの。
悪い夢を見ているような心地のまま、学校の授業で習った心肺蘇生法を思い出した。通っている時はこんなものいつ使うんだろうかと疑わしく思っていたが、役に立つ時が来たようだ。
私は白澤様の上半身の横に立ち、真白の絹のような胸に両手を置いた。ぐっぐっ、と非力ながら力を込めて胸部を圧迫する。
胸部圧迫30回。その後人工呼吸2回。それを繰り返す。我ながらよく覚えていたものだ。
とても疲れる処置で、10回もしないうちに腕の筋肉がへたってきた。油屋で働いて、大分力仕事にも慣れたと思っていたのに。
ようやく30回が終わって、白澤様の唇にそっと己の唇をつける。胸が膨らむくらいまで空気を送り込んで、吐き出させて、一秒くらいの間隔でそれを二回。
「んっ、くっ」
また胸部圧迫。腕が疲れて来て、押す強さが弱くなってきている。こんなんでは効果がないと自分を振り立たせるが、大した効果はなし。
必死に全身を使って胸元を押し続ける。水を含んでぐっしょりと重くなった襦袢が、肩から滑り落ちて行った。冷え切っていた体が暑くなってくる。
また人工呼吸。少しの空気も漏らさないように。
そしてまた胸部圧迫――何度も繰り返す。もしかしてもう息を吹き返したのではと胸元に耳を当ててみる。だが、何の音も拍動も感じなかった。
「嘘……白澤様、本当に死んじゃったの……」
光もない真っ暗な岸辺。遠くに浮かぶ屋形船の灯りが余計に悲しさを際立たせて、熱い涙が眼の渕を越えてあふれ出してきた。
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季紀(プロフ) - 一葉さん» 3周も読んでくださる方がいるなんて、感無量です（ ; ; ） 感謝の気持ちで一杯です☺︎ ありがとうございます！ (2022年6月19日 20時) (
レス) id: 597a075cd6 (このIDを非表示/違反報告)
一葉(プロフ) - 見てるこっちもキュンキュンして、かれこれ3周目です笑この様な最高の作品を作ってくれてありがとうございます😍 (2022年6月19日 19時) (レス) @page49 id: 85091bc4a0 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - Sakuryaさん» まだ見てくださっている方がいると思わなかったので本当に嬉しいです。中学生の時に書き始めてついに大学生になってしまいましたが、大学は暇なので沢山ネタを考えているのでその都度更新していこうと思っています。笑 応援ありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
季紀(プロフ) - 雪華さん» 暫く書いていないので文章も拙い中そんな風に言っていただけで嬉しいです。雪華さん何度もコメント欄？でお見かけした覚えがあります。いつもありがとうございます。 (2019年6月6日 13時) (レス) id: 8fd0d878f8 (このIDを非表示/違反報告)
Sakurya(プロフ) - 更新されたと通知があり、ものすッッごく嬉しくて！！今後もこういったかたちでいいので、私生活に支障が出ない程度に頑張ってください！ジブリのハクを好きでいてよかったと思える作品です！！ (2019年6月5日 21時) (レス) id: e0447573e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kiki
| 作者ホームページ：http://nanos.jp/catsong2/
作成日時：2015年8月17日 23時
