兎と交代 ページ37
｢あははー！｣
｢二人のホクロ君は一生懸命走る。だがホクロ君達の距離は永遠に縮まることはない。｣
｢かわいそう･･･！｣
二階堂がわざとらしく泣き真似をする。
(う、宇佐美さんは、鶴見中尉に対してはあんな顔をするんだ。鶴見中尉には･･･私には、あんな顔しないのに･･･って、これじゃ、まるで鶴見中尉に嫉妬しているみたいじゃない！だ、だいたい、鶴見中尉は男なのよ！な、なに考えて･･･)
そんな宇佐美の様子に、Aの心は酷く動揺した。
｢おや、そうえば川田さんは網走監獄の看守だったな。川田さん、網走監獄の武器の保管場所は分かるかね？｣
｢えっと、それは･･･｣
Aは数年、網走監獄の看守を勤めていたのだ。分からないわけがなかった。しかし、素直に答えるのはどこか忍びなかった。なぜなら、教えれば網走監獄にいる門倉が死ぬような目に遭う可能性が、格段に増えるのだから。
Aは、宇佐美に門倉には心残りはないといったが、それは、その場しのぎの嘘であった。Aの信頼を裏切ったとはいえ、長年慕っていた上官だ。できれば、死んで欲しくはなかった。
｢おや、知らないのかね？｣
そんなAを鶴見は、訝しげに見つめる。
｢あ、えと、あの･･･｣
｢その様子だと知っているな？なぜ、素直に教えない？｣
｢い、いや、そ、それはその･･･｣
｢宇佐美上等兵。座らせろ。｣
｢はい！じゃあ、Aさん。僕と交代ね！｣
｢え?!｣
いつの間にか、恍惚とした悦から元に戻った宇佐美は椅子から立ち上がり、今度はAをその椅子に無理矢理座らせた。
｢え、えと･･･｣
｢大人しくしてくださーい。鶴見中尉殿のご命令には逆らえませんから、ね？｣
｢は、はひ･･･！｣
そう、宇佐美に耳元で強請るように囁かれれば、Aは従うしかなかった。
｢君は、どうやら網走監獄に未練があるようだな。しかし、我々のために戦うといった･･･その言葉に嘘はないだろう？｣
そういって、鶴見は死神顔負けの恐ろしい顔をAにずずっとつきだした。
｢は、はい･･･！｣
(ち、ちかいちかい！)
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
