兎の恍惚 ページ36
Aの歓迎から暫し立った頃。宇佐美は、鶴見に本題である網走監獄潜入捜査の結果を報告していた。
｢───ですから、門倉看守部長が土方と内通していた可能性は非常に高いです。土方が脱獄した今も、それは同じかと思われます。これに、犬童典獄は既に気づいているようですが、これといった処分は受けてないようです。｣
｢犬童典獄は土方に、兄を殺されたという恨みがあるからな。あえて、その看守部長を泳がせて土方を自分の砦に来るように誘い込んでるのかもしれん。必ず土方らはのっぺら坊を奪いに網走監獄に行くだろうからな。そして、兄の仇でも取るつもりか･･･月島、例の電報は？｣
｢はい。谷垣から小樽のおばあさん宛に送られた電報によりますと、杉元一行と土方一行が屈斜路湖付近のアイヌの村で合流したそうです。｣
｢ふむ。ならば、そろそろか。その看守部長は放っておけ。そいつを始末しては、網走監獄に土方らが侵入することすら出来ないからな。できれば網走監獄の人間と彼らには、殺し合う鯱になってもらいたい･･･我々は、その死骸を喰らう気色悪い生き物でいた方がこちらの痛手は少なくて済むからな。｣
｢はい。承知致しました。｣
｢───それから、犬童天獄は囚人を硫黄山で働かせ武器購入の資金としていたようです。マキシム機関銃までありました。他にも強力な武器を隠し持ってる可能性も大きいです。｣
｢で、その武器を保管している場所を探る前に正体がバレてしまったと。そういうわけだな、宇佐美上等兵〜？｣
｢ あぁ･･･汗｣
｢月島座らせろ。｣
｢は、あぁ･･･｣
(う、宇佐美さん?!)
Aは、宇佐美の聞いたことも無いその甘ったるい声に、内心酷く困惑した。
｢貴様を看守として潜入させるためにどれだけ手間がかかったかわかっているのか？｣
そういって鶴見は、宇佐美の眼球に持っているペンが刺さるくらい顔を近づける。
(はああ･･･ちかいちかい！)
｢ここのホクロにこうしてこうして体を描いて走らせてやる〜！｣
鶴見は、宇佐美の口端のホクロに走る棒人間を描いた。
(ああ･･･)
｢あ〜走ってる〜！｣
｢もう片方のホクロも走らせてやる〜！｣
(頭が沸騰しちゃう･･･！)
宇佐美は、憧れの上官にそのような罰を受け、頬を赤く染めてすっかり悦に浸ってしまった。頭の中は、すっかりケシの花畑である。それを、悔しそうに見つめる鯉登、真顔で見つめる月島だった。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
