Arco Iris Ⅴ (ページ37)

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天野さんの言葉には、同情とか慰めとか、そんなモンは見当たらんかった。

天野さんは、俺への気持ちをちゃんと答えている。
俺とは付き合えない。自分の問題を解決するのに精一杯だから。

けれど、俺への感謝や…俺がどれだけ天野さんにしたのかちゃんと覚えてくれて

この子は、ちゃんと俺を「仲間」として見てくれている。
俺を信じてくれている。

そんな俺が出来るのは、君を振り向かせる…という感情は2の次3の次で…

「……っ…諦め悪いからな、俺」

「え？」

俺は天野さんの顔をハンカチで覆う。
俺は天野さんに泣いて欲しい訳やない。

「…同期の仲間として、味方として…友達としても……俺は！天野さんが好きやから！せやから一緒に戦う！っ…もうこれは俺ん中では決定事項て、言うたやろ！」

「……櫛野君」

「……天野さんに散々元気出せとか前向きになれとか色々言うてんのに、俺がそんなんやとアカンよな。ごめんな……」

「ううん。櫛野君が謝る要素は全然ないよ。本当に…今までありがとう。それで…」

「…これからもよろしくな」
「……うん、よろしく」

天野さんにはやっぱり笑って欲しい。
色んな陰りが消えてなくなった時、沢山笑って欲しい。

それが晴れるまで、俺はこの気持ちを一度抑える。

失恋した訳やない。
彼女が誰かを想うよりも前に、優先せなアカン事があるからや。

…彼女が誰を選ぶか、誰を好きになるかは分からん。
けど、俺はその時も彼女の仲間でおるんは決定事項やから。

天野さん含む女芸人とはここで別れ、俺達は俺達で二次会を楽しむ事にした。
荒川さんからは「最後まで諦めんといてな」とか、早乙女さんから「フラれた訳じゃないからセーフですよ」と慰められたりと…全体的に暖かい目で見られた気がする。

「櫛野君。また会える時にね」

「おん、またな」

こうして手を振り合い、女の子達はそのまま目的地へ向かうべく、俺達に背を向ける。

それだけで

天野さんの視界に、俺が入らなくなったのを認識しただけで

俺の視界が、一気に歪んでしまった。

「…櫛野」

あぁ、そうか。

本当に、彼女が好きで好きで仕方なかったんや。

…けど、同時に…今の俺では、彼女の全てを支えられないと自覚した。

好きを諦めた訳やなくて

天野さんがどれだけ重いモンを抱えとるのか理解出来んかった俺が情けなくて、悔しくて

…やっぱり、悲しい気持ちだけが残ってもうた。