・ ページ25
何で私、フッちゃったのかな。
櫛野君は良い人。
それだけじゃない。
これまでだって振り返れば、沢山優しくしてくれた。
守ってくれた。
だけど…どうしても、恋愛感情かと言われたら分からない。
それに、簡単に「じゃあ試しに付き合ってみましょう」という展開になるのも違うと思う。
……どう答えれば良かったのか、分からない。
確かに櫛野君は好き。でも…
「私、薄情だな」
こんなに想ってくれた人を
こんな形で裏切って、傷付けて
これぞ「恩を仇で返す」なのではないだろうか。
「子供の頃もそうだったな」
どこかの家が主催したパーティーを思い出す。
もう15年も前の話だ。
―――こっち見るな、気色悪い。お前の家のせいで、皆嫌な気分して堪らないんだよ。
―――天野家は、色んな人間を裏切ってるんだってお父様とお兄様が教えてくれたよ。どう見てもお前達の家は、皆からあまされてるのが良く分かる。
―――お前も“裏切者”になるんだ。
そう言われて、初対面にも関わらず、同年代であろう男の子にジュースをかけられた。
その子は王子様みたいに美しくて、ドキドキした。話しかける事なんか出来なかった。
だから…向こうから話しかけられてちょっと驚いたけど…嬉しかったのに。
その直後、その男の子はどうやら天野家が以前から繋がりが欲しかった家の御曹司で、そんな子に気に入られなかったとか何とかで、兄さんにも水をかけられた。
―――お、おい…何してんだよ！君、大丈夫!?早く拭かないと…つーか大人の奴等何やってんだよ…！
また別の御曹司のお兄さん…子供の頃の私からしてみれば大人に見えたけど、多分中学生か高校生くらいの人が、ハンカチを差し出してくれた。
何なら、誰よりも私の為に怒ってくれた。
私程じゃないけど、彼だってまだ大人の手が必要な子供なのに。
本当に役立たずで、迷惑ばっかかけて、しかも初対面の子にすら低評価…酷評されて…
―――大丈夫です。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。
助けを簡単に求めるのは良くない、と学んだものだ。
天野家の評価は、分家や同盟を組む財閥を含め本当に低い。
人を蹴落とすのに何の躊躇いもないのだ。
良く世間が「いじめっ子はあらゆる企業で成功しやすい」という皮肉めいた発言をぼやくのも、それだと思う。
……
櫛野君の泣きそうな顔は、きっと一生忘れられないだろう。
私は彼の気持ちを踏みにじったのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 28人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：氷柱 | 作成日時：2023年11月4日 2時
