悔しい ページ40
「と、とにかく…逃げよう、天野さん！」
「え…？」
そう言って櫛野君は私の手を握る。
息はまだ整っていないというのに…私と一緒に走ろうとする。
櫛野君は、私の事情については深く追及はしない。
私の身に何が起きているかも分からないのに、だ。
とても優しく、強く感じられる程の力だ。
「櫛野君…私は…！」
「事情は後で聞くよ。でも今はなるべく離れた方がええやろ？」
「……う、うん…」
「急ごう！」
私は、私達は、必死で逃げた。
逃げて
逃げて
逃げて、気付いた。
櫛野君を巻き込んで
満優さんと荒川さんとの約束を破って
天野家と切れていなくて
私は、ただ
路地裏に入る。当然というべきか人気はない。
「ここなら、天野さん追う輩は辿り着かんやろ。まぁ…散々走ったけど、追手らしいの来んかったし…撒けたかな」
「……」
「というか天野さん大丈夫？もしかして待ち合わせとか約束あって…そんな中追いかけられた…とか？」
「……あ、荒川、さんと…満優さん、と…」
「荒川さん達と遊ぶ約束してたん？ほんなら俺が連絡するから。天野さん…少し息整えて…って、俺が言うセリフやないけど……少し待ってな」
悔しい。
何で、私は
悲しくて、悔しくて、辛くて
なんて、みっともない。
「―――そうそう！そうです……あれ、そうなんですか？ならその店に入りますね。
お待たせ、天野さん。こん近くに……
……って、えぇっ!?」
「……え」
櫛野君が私の顔を見てギョッとする。
その時に、私は自分が泣いているのだと言う事に気付いた。
視界がぼやけている事に、目から溢れる生暖かいものに
悲しくて、痛くて、悔しくて
そんな感情がどんどん込み上げる。
「あ、天野さん!?大丈夫!?痛かったとか…いやそれ以上に怖かったよな!?もう大丈夫やから！」
「ど、して」
「え？」
「櫛野君、何で、私の為に……」
「……」
「得体の知れない何かに追いかけられて、その上助けてもらって、泣いて……みっともなくて、格好悪いのに……！私が…私は…！」
「天野さんは、何でそんな自分を悪く言うん？」
少し怒った様な、でも優しく問う声
「天野さん、また天野さんの中にあるアホな部分出てるよ。何をそうさせてるのか、同期で…味方の俺に、ちゃんと言うてよ」
「私……私……無理、だった……耐えられなかった……！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 20人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：氷柱 | 作成日時：2023年9月12日 0時
