Arco Iris Ⅳ (ページ37)

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そんなこんなで雪希に服を選んでもらったり…一緒に買い物したのは、やっぱり良い思い出に変わりはない。

……芸人仲間からの嫌がらせが始まってから、2着ぐらい使い物にならなくなりましたが、あの服だけは死守出来て良かったと心底思います。

「………何だかんだで、雪希の事だけは嫌いになれない…のかも」

不満はある。
言いたい事は一杯ある。

怒りたい事も、聞きたい事も、何もかも…

「……」

まだ、望んでいるのかな。
やり直せるなんて。

なんて、恋人でもないのに、流石に気色悪い。

相方のと解散なのに。

たかが、コンビ解消しただけなのに…

「っと、早く行かないと」

戸締りはOKだ。
急がないと遅刻する。

「ん」
「あ、こんにちは」
「こんにちは…」

玄関ホールで、どこかで見覚えのある年上らしき男性と目が合い、お互いに挨拶を交わす。
そして私は急いで待ち合わせ場所へ向かうのであった。

「(…凄く可愛い女の子だけど……どこかで……

っと、こんな所で立ち止まったらただの不審者だから。尾関だって前に秋一君を長くここで待ったら警備員に通報されかけたって聞いたし。コンビで同じ場所で通報されかけたとか洒落にならないから。

まぁ…秋一君も秋一君だけど。本当、いい加減自分が色気溢れる美形だって気付かないかな…茶菓子買うだけだからって理由でノーマスクノーキャップで外出るの、自滅行為だって何度も言ってるのに。

まぁ、どっちも可哀想な目に合ってる気がしないでもないけどね)」

男性がそう考えていた事も
まさか桜野さんの知り合いという事も、今の私には知る由はなかった。

………

待ち合わせ場所である建物に着く。

ここで良いはず…と何度も確認したトーク履歴を見返す。

…それにしても、系統は違えどオシャレな荒川さんと満優さんと一緒…緊張して来ました…

確認を終えた後、私はスマホの画面を暗くし、鞄に入れようとして―――

「おい」

声を掛けられ顔を上げると…

バシャッ

―――え？

冷たい…無臭だから、水だというのは分かる。

「！」

スマホを取り上げられたと同時に、別の意味での緊張感。

身体が凍える様な感覚。

苦しくなり、息がし辛くなる。

芸人仲間ではない。
関係者でもない。

高校時代を思い出す。

彼は、兄…天野篠〈ｱﾏﾉｼｮｳ〉の

―――篠さんの邪魔をする奴は、許さねぇ。

狂気的な崇拝者だ。