Arco Iris Ⅳ (ページ19)

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「ちょっと！何を聞いて―――」

古市が南雲を咎めようとして…それを秋一兄さんが手で制す。

「申し訳ないね南雲君。俺は「君が想像している頭の良い桜野秋一」ではなかった様で」

「答えられないんじゃなくて、答えたくないとかですか～？実は、俺の今の発言、図星だったんでしょ～？」

「ははっ、図星かと聞かれたら、俺は間違いなく「全くもって違う」と答えるよ」

南雲の幼稚な煽り…もし俺がやられたら、平静を保てるんやろか。

天野さんの場合は凛とした振る舞いで反論したらしいけど、南雲の取り巻きや乃川さんを崇拝する人達が色んな意味で強過ぎて…何度も倒された。でも潰されてはいない…

それは…彼女は感情に全てを任せず、言葉で立ち向かおうとし続け取るからや。

秋一兄さんもそれは同じ…言葉は最大の武器と信じる人。
恐ろしゅう程冷静で…無視したくなる問いに、心乱される事なく淡々と答える。

「俺は、面白いだけじゃなくて、周りやファンを楽しい気持ちにさせてくれる…努力や精進し続ける人も好きだけど、お笑いを本当に愛して止まない芸人が大好きなだけ」

「芸歴25年の芸人が、そんな甘ちゃんで綺麗事を吐くなんて……俺らはアンタには騙されない…でもさー…」

南雲がそこで言葉を止めると…俺、坂口、古市を筆頭に、兄さんを見て純粋に歓喜の声をあげた芸人らを見渡す。

「俺思うんだけどさ、お前ら…自分達がお手本にしたい先輩芸人…間違ってんじゃね？むしろこの人さ、この容姿なら色々とやってるに決まってると思わねー？」

「！…この、手口」

「…坂口、何や手口て」

「そうやって、アイツは何度も天野さんを…」

皆には聞こえん様に会話する。
しかしそれ以上続けるんは流石にリスクが高い。

けど、今のこん状況が何なのか理解した。

南雲は天野さんの無い事無い事を大声で糾弾して、晒し者にしては味方を失くそうと…否、居場所を消そうとした。

今の状況は…そん立場が秋一兄さんとなってはる。

「こんなチャラい奴が先輩とか終わってんな～。卑怯な手で地位掴んで、アンタもアンタと仲良い奴らも、本当恥ずかしいっすねー！」

天野さんの時と違うんは…
場所は各事務所が集まるであろうどこにでもある地方ライブではなく…吉本芸人しかおらん神保町漫才劇場。

幸いなんは…天野さんの時と違うて、疑心暗鬼になっとる芸人も、南雲の取り巻き共の数も少ないて言う点。

相も変わらず調子に乗る南雲…愚かモンや。