┊ ページ9
.
「いや、ほんっまにすんませんした〜！」
若い男は俺の横の席に腰掛けてぺこりと頭を下げた。
体格よりも大きめの服を着、首にカメラを下げた男は
俺のスーツのクリーニング代を出すと言って聞かず、
その話の流れで他愛もない世間話へと発展した。
向井くんというらしい。
27歳でタイとのハーフ、ということを聞いてもないのにペラペラと饒舌に喋る。
そういえばAもカメラが好きで、旅行で行ったタイがすごく好きだったなと頭をちらりと掠める。
彼は俺のことも、宮舘さんて珍しい苗字っすねえ〜と大袈裟に囃し立て、ずいっと身体を近づけて顔を覗き込んだ。
「指輪してるってことは……既婚者っすよね？」
「ああ、うん」
「奥さん名前何て言うんすか？」
「え？」
やけに食い気味だな、と思いつつも名を口にすると、
「やっぱりそうかあ〜〜〜！」との彼の大きな声に驚いてしまう。
「え、……何？」
「珍しい苗字や思ったんすよ！
やっぱそうかあ、奥さんと俺、多分知り合いっすよ」
「…え、あ、ほんと？」
「はい。奥さんには随分お世話になってまして」
Aに、親しい男友達や部下などは知ってる限り居ないと思っていたからか、その言葉に少し面食らってしまう。
その上ダメ押しで彼が「ほんっま奥さん、綺麗で、可愛くて、いい人っすよね〜」と言い出した時に、更にこの胸はざわめいた。
「あの、君は………」
「ああもうこんな時間や！！俺行かなアカンわ」
「じゃあまた！宮舘さん！これクリーニング代」。
ほんますんませんした〜とペコペコ頭を下げて、
向井くんは颯爽と店から出て行った。
結局俺の妻との関係を聞けずじまいだったが
やけに胸がざわついていた。
向井くんの顔が、Aの話をし、Aのことを思い出そうとするとすごく優しく温かいものになっていた。
これは俺の考えすぎか？と胸には引っかかっていたのに
仕事は立て込み、Aともすれ違う日が数日続いてしまって、そのことはたちまち俺の脳から消え失せた。
そんなある日、仕事の同期から子供の話をされ、
この手の話は…と思って俯いていると、
「俺、男性不妊てヤツだったんだよ」と唐突に告げられた。
「お前もさ、念のため検査受けてみたらどうだよ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1748人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ありす - 全部凄く面白かったです！ドロドロ感が最高です！！特に奇術師の愛の地獄がぶっ飛んでいて好きです！！いつも楽しく読ませていただいております！！続き読めたら読みたいです！！いつも楽しい作品をありがとうございます🙇♀️ (7月31日 1時) (
レス) @page50 id: b62757b173 (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - ゆきさん» ゆき様心躍るコメントを有難うございます😭♡そんな風に言って貰えれば嬉しいなと思って書いていたのです！私自身こんなお話が好みでどうもダークめにしがちなのですが、その部分を共感して頂けているようですごく有難いです。心から感謝です😭♡ (2021年11月30日 19時) (レス) id: 33b6f5a04f (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - ユッピンさん» ユッピン様、お待ちしておりました（笑）とんでもない、ただのカタストロフィなんです😭(?) 3つも挙げて頂けて歓喜です！いつかユッピン様にドロドロが好きでと言って頂けてからこの路線で書いていくことに自分でもハマれました。本当にありがとうございます！♡ (2021年11月30日 19時) (レス) id: 33b6f5a04f (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - みりぽんさん» みりぽん様っっ！今回も最後まで見てくださってありがとうございます😭♡ニコイチは現代ぽくない上にぶっ飛びレベルがちょっとアレだったので不安でしたが…。そう言って頂けて本当に良かったです😭ありがとうございます♡ (2021年11月30日 19時) (レス) id: 33b6f5a04f (このIDを非表示/違反報告)
Haruno(プロフ) - なかさん» なか様いつもありがとうございます！そんなに褒めて頂けて、もう…もう…羽ばたいちゃいそうです😭♡こちらこそ、毎度感動するご感想を送ってくださり心から感謝です！今後もどうぞよろしくお願いします🙇♀️ (2021年11月30日 19時) (レス) id: 33b6f5a04f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Haruno
| 作成日時：2021年11月6日 6時
